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「バルコニーに戻る前にケイトが……貴方にプロポーズするって言ってましたけど」
僕はぶんぶんと首を振った。
「そんなの、ケイトの冗談に決まってるだろ」
「どうだか……」
ジュンは苦笑していた。
「聞きたいんだけどさ、ケイトは僕が男だって分かってた?」
「いいえ。それは伏せたままです」
「そっか……」
やっぱり、ケイトは僕の正体を知らなかったんだ。僕がもらった眼差しは、アリスに向けられたもの。どこかがっかりしている僕がいた。
「言えるわけないじゃないですか」
ジュンはちょっと拗ねたような顔で僕をにらんだ。
「ケイトはすでに完全に恋しちゃってたんですよ!」
「えっ……」
言葉に詰まる。
「恋に舞い上がっているあのピュアな瞳を見たら、とても言えませんでした……アリスさんが男だなんて。僕の知る限り、今回のがケイトの初恋ですよ。あの真面目人間が、天使だの恋だのと」
僕は、それを聞いて真っ先に、嬉しいと思った。天にも昇る気持ち。
それからすぐに、ケイトの恋はアリスに向けられたものだって思い出した。天に達しかけた僕の気持ちは、おでこの辺りまで落ちて来た。
「何なんですかね、あの人は。そんな純粋なところも可愛すぎますよ。そうだ、初恋の記念にお赤飯を炊かないと……」
ジュンが早口でいう。冗談めかしたジュンの言葉。ジュンは笑ってた。その笑顔が少し強張っているのに気付いた瞬間、僕の気持ちはみぞおちの下までめりこんだ。
ケイトはジュンの大事な人。僕はどうしてそのことを忘れて、ケイトの気持ちを喜んだりできたんだ?
「とにかく、あの場で事実を告げたりしたら、ケイトは動揺して、作戦どころじゃなくなっていたでしょう」
ジュンは咳払いをすると椅子に腰掛け、僕を手招いた。
「アリスさんこそ、どうしてケイトに正体を明かさなかったんですか」
「えっ」
そこを突かれると、かなり後ろめたい気持ちになる。
「最初は、相手が領主様だと思わなくて。メイドさんに見つかったと思って、必死で女の子のふりをしてたんだよ」
僕は言い訳をしてしまった。
「だって、普通ありえないよ……あんな可愛いメイドさんが男で、しかも舞踏会を抜け出した領主様だなんて」
「まあ確かに……お察しします」
ジュンは頷いてくれた。
「僕たち、正体も知らずにカーテンの陰で鉢合わせしちゃったから……お互いに一生懸命女の子のフリしてたんだよ」
その状況を想像したのか、さすがのジュンも吹き出した。
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