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「予想外のことがたくさん起きましたからね。臨機応変に対処してくれて感謝しています」
ジュンは笑いながらも、複雑な表情を浮かべている。
「でもまさか、恋にまで発展してしまうとは……」
「うっ……」
それを言われると辛い。メイドさんの正体が領主様だって気付いてからの僕の行動は、褒められたものでなかった。
「ごめん……僕にも、訳がわからないんだ」
アリスのフリを続けて、領主様の気を引こうとしたのは事実だ。どうして、そんなことをしようと思ったんだろう。
「ケイトの瞳を見ただけで体が痺れたみたいになって、ドキドキして、頭はふわふわになっちゃったんだ」
ジュンは話している僕の両肩をぐいと掴んだ。
「アリスさん、あなたまさか」
「な、何?」
ジュンはしばらく僕の顔を凝視していたが、突然がくりとうなだれて、顔を手で覆ってしまった。
「どうしたの、疲れた?」
「……何でもありません。自分の愚かさが呪わしいだけです……」
「おろかさ?」
「だ、大丈夫ですよ……推しの幸せは我が幸せ……ですから……」
「ジュン! どうしたの? 今にも吐きそうな顔をしてるよ」
僕はジュンに背中をさすった。部屋を見回すと、白い布がかかっている寝椅子らしきものが目に入った。
「あそこですこし横になったら」
僕はジュンを抱えて立たせようとした。ジュンは俯いたまま僕にすがりついてきて、うう、とうめいた。
「ケイちゃんの匂いがする」
僕のこめかみに鼻を摺り寄せながらジュンがつぶやく。僕はどうしたらいいのかわからなくて、じっとしていた。
「……ジュン?」
「あなたとケイトは、両想いなんですね?」
「えっ?」
僕は言葉を失った。ジュンは恨めしそうな目で僕を見上げた。
「察するに、こちらも初恋ですか。おめでとうございます……お赤飯は二人分用意しましょう」
ジュンは再び僕の肩に顔をうずめた。そのままずるずると顔を押し付けながら下がって行き、最終的に僕の腰に縋り付いたままちっちゃくうめき声をあげた。
「ジュン、お願い! 気を確かに!」
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