Ⅴ-1 夏の屋敷

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「予想外のことがたくさん起きましたからね。臨機応変に対処してくれて感謝しています」  ジュンは笑いながらも、複雑な表情を浮かべている。 「でもまさか、恋にまで発展してしまうとは……」 「うっ……」  それを言われると辛い。メイドさんの正体が領主様だって気付いてからの僕の行動は、褒められたものでなかった。 「ごめん……僕にも、訳がわからないんだ」  アリスのフリを続けて、領主様の気を引こうとしたのは事実だ。どうして、そんなことをしようと思ったんだろう。 「ケイトの瞳を見ただけで体が痺れたみたいになって、ドキドキして、頭はふわふわになっちゃったんだ」  ジュンは話している僕の両肩をぐいと掴んだ。 「アリスさん、あなたまさか」 「な、何?」  ジュンはしばらく僕の顔を凝視していたが、突然がくりとうなだれて、顔を手で覆ってしまった。 「どうしたの、疲れた?」 「……何でもありません。自分の愚かさが呪わしいだけです……」 「おろかさ?」 「だ、大丈夫ですよ……推しの幸せは我が幸せ……ですから……」 「ジュン! どうしたの? 今にも吐きそうな顔をしてるよ」  僕はジュンに背中をさすった。部屋を見回すと、白い布がかかっている寝椅子らしきものが目に入った。 「あそこですこし横になったら」  僕はジュンを抱えて立たせようとした。ジュンは俯いたまま僕にすがりついてきて、うう、とうめいた。 「ケイちゃんの匂いがする」  僕のこめかみに鼻を摺り寄せながらジュンがつぶやく。僕はどうしたらいいのかわからなくて、じっとしていた。 「……ジュン?」 「あなたとケイトは、両想いなんですね?」 「えっ?」  僕は言葉を失った。ジュンは恨めしそうな目で僕を見上げた。 「察するに、こちらも初恋ですか。おめでとうございます……お赤飯は二人分用意しましょう」  ジュンは再び僕の肩に顔をうずめた。そのままずるずると顔を押し付けながら下がって行き、最終的に僕の腰に縋り付いたままちっちゃくうめき声をあげた。 「ジュン、お願い! 気を確かに!」 ***********    
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