Ⅵ-5 恋の恨み

2/9
前へ
/115ページ
次へ
「領主様は出席するの?」 「もちろん」 「……」  領主様に正体がバレていることをジュンが知らないのは問題だ。  僕の着替える手が止まる。するとジュンはベッドに腰かけて僕を前に立たせ、首元のネクタイを結んでくれた。 「そういえば、夏の館の門の前に、馬の蹄の跡がくっきりと残っていました……昼間、私の他に誰か訪ねては来ませんでしたか」  僕はごくりと唾を飲む。それは多分、領主様の足跡だ。  でも領主様はジュンには内緒にする様にと仰せだったから、話すわけにもいかなかった。領主様は領主様で、ジュンの立場を思っての口止めなのだろう。  大きな鏡の前に立たされた。小姓姿の僕の髪を、ジュンは優しく整えてくれた。  ジュンは、ケイトが僕の正体を知って傷つく事を恐れている。すでにその心配はいらなくなったということを、やっぱり教えてやりたい気もする。  僕がぐるぐる迷っていると、ジュンは言った。 「晩餐会で、ケイトをあなたに会わせてみようと思うのですが、どうでしょうか」  僕はびっくりした。 「正体を話すの」 「いいえ、あくまで私の小姓として紹介するだけです。それで、ケイトを試してみたい」  僕はジュンの顔を見た。ケイトを「試す」なんて言い方は、何となく、ジュンらしくないような気がしたのだ。 「ケイトが少年の貴方を愛せるかどうか。僕はそれが知りたい。晩餐会であなたの姿を見たケイトがどう反応するのか、試してみましょう」 「そんなことをして何になるの」 「恋なのか、妖精の呪いなのかが分かります」 「どういうこと?」 「貴方の本当の姿を見てもケイトが何も感じないのなら、単に呪いでアリスに恋焦がれているだけなのでしょう」  ジュンの言葉にはっとする。確かに、ピノは贈り物をくれる時、アリス=ビョルンを名指ししていた。正確にいえば、僕ではない。 「でももし、ケイトが貴方の正体を見抜けたとしたら、貴方への愛が本物だということではありませんか」 「そ、そうとは限らないよ」  僕は焦った。結果は後者になるということは昼間に実証されていた。領主様には僕の正体がすぐにわかってしまったんだ。  だけど、それが本当の愛の証拠だなんて決めるのは早い。
/115ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加