Ⅵ-5 恋の恨み

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「姿を変えても名前を変えても、妖精の贈り物は有効なのかも知れない」  氷の森の魔法については、僕だって分からないことが多すぎる。 「僕は行くのやめるよ」 「なぜ?」 「ジュンだって、領主様が自分以外の男相手に悩む姿なんて見たくないだろ」 「……ケイトだって、それくらい悩んでしかるべきです」  ジュンは呟いた。 「ブラコンに悩むのより百倍マシじゃないですか。名前を偽って隠れて暮らすより千倍マシじゃないですか」 「え?」 「私はいささか疲れました。これ以上はあなたにも気の毒です。いずれ正体は明かしましょう。でもその前に、少し領主様を困らせてやりませんか」  ジュンは僕の脱ぎ捨てたケイトのシャツを抱きしめて、遠い目をしていた。 「ケイトはね、散々僕をふって来たんです。建前を気にして、男同士の愛なんてあり得ないと、はなから決めつけていたんです。そのケイトが、年下の少年に恋焦がれるなんて……見ものではないですか」  ジュンの暗い笑顔に、僕は背中がぞくりとした。 「禁断の恋に苦しむ者の気持ちを知ればいい。これまでの冷たい態度の報いを受ければいい。自分が放ってきた言葉に、自分で傷付けばいい」 「ジュン?」  ジュンはその漆黒の目を真っ直ぐに鏡の中の僕に向けていた。 「領主様の言葉でいうなら、苦しみを選ぶのだって彼の自由であり、権利です」  ケイトに対して報われない愛を捧げ続けているジュンの、思わぬ怨念を見たような気がした。 「ジュン、そんなの本心じゃないだろ? 君はいつも、ケイトを守ることだけを考えてるのに……」  ジュンは僕をみて、疲れたような笑みを浮かべた。 「大丈夫。ケイトは、私の優しさなど不要なんです。私の忠告を聞く気も、私に守られる気も、さらさら無いのかも知れない」 「どういうこと?」 「……ケイトは貴方に会いに来たのでしょう?」  僕は息を呑んだ。 「知ってたの?!」 「やっぱり……」  僕は両手で口を覆う。 「領主様が午後の会議をすっぽかしたと聞いて、まさかと思ったのですが」 「いつから気付いてたの」 「庭の蹄の跡を見て確信しました。それに、貴方の髪からも微かにケイトの匂いが」  そんな早い段階で! というかさっき僕に抱きついてきた時に、ケイトの匂いを嗅ぎ分けてたってこと? 怖すぎるよジュン……。 「黙っててごめん……」
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