Ⅵ-5 恋の恨み

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「……ケイトという人が分からなくなってきました」  ジュンはそういうと僕の手を取って、自分の隣に座らせた。 「オト……彼は、禁断の恋に苦しむような、そんな可愛いたまじゃないかも知れない」 「どういうこと?」 「あの人は、貴方をあっさり諦めるつもりなんだ」  僕は胸の痛みを隠してうなずいた。 「それはそれは『聡明な』方だから。理に優った方だから。貴方が男だと分かった以上、不毛な恋を引きずったりはしない」 「領主様は、冷静な方なんだね」 「冷静というかもはや冷酷ですよ……私の思いだって無視し続けているんですから」  僕はジュンの手を振り払うのも忘れて話に聞き入っていた。妖精に頼み込まなくたって、領主様は理性で恋に打ち勝てる人なのかもしれない。 「……それならそれで、いいんじゃないかな」  僕はジュンの小姓として演じるべき振る舞いが、全て見えた気がした。 「そうだジュン! 領主様の理性に訴えて、恋を完全に終わらせよう」  ジュンはいきなりやる気を出した僕を不思議そうに見ている。 「晩餐会で、僕は領主様に嫌われるように振る舞えばいいんだ。アリスが男で、君の小姓で、えっちな意味で可愛がられるいかがわしい奴隷ってことになれば、領主様の恋は完全に冷めるんじゃないかな!」 「いかがわしい奴隷って……」  僕のあからさまな発言に、さすがのジュンも顔を赤らめた。その時、お城の鐘が鳴った。 「そろそろ、晩餐会の時間です」 「よし! 行こう!」  僕はジュンの腕に腕を絡めて、頬を擦り寄せた。 「それはやりすぎです。人前では主人に甘えたりしないものです」 「そっか」 「匂わす程度で行きましょう」  ジュンは舞台役者のような綺麗な顔で、にっこりと笑った。  
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