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「……ケイトという人が分からなくなってきました」
ジュンはそういうと僕の手を取って、自分の隣に座らせた。
「オト……彼は、禁断の恋に苦しむような、そんな可愛いたまじゃないかも知れない」
「どういうこと?」
「あの人は、貴方をあっさり諦めるつもりなんだ」
僕は胸の痛みを隠してうなずいた。
「それはそれは『聡明な』方だから。理に優った方だから。貴方が男だと分かった以上、不毛な恋を引きずったりはしない」
「領主様は、冷静な方なんだね」
「冷静というかもはや冷酷ですよ……私の思いだって無視し続けているんですから」
僕はジュンの手を振り払うのも忘れて話に聞き入っていた。妖精に頼み込まなくたって、領主様は理性で恋に打ち勝てる人なのかもしれない。
「……それならそれで、いいんじゃないかな」
僕はジュンの小姓として演じるべき振る舞いが、全て見えた気がした。
「そうだジュン! 領主様の理性に訴えて、恋を完全に終わらせよう」
ジュンはいきなりやる気を出した僕を不思議そうに見ている。
「晩餐会で、僕は領主様に嫌われるように振る舞えばいいんだ。アリスが男で、君の小姓で、えっちな意味で可愛がられるいかがわしい奴隷ってことになれば、領主様の恋は完全に冷めるんじゃないかな!」
「いかがわしい奴隷って……」
僕のあからさまな発言に、さすがのジュンも顔を赤らめた。その時、お城の鐘が鳴った。
「そろそろ、晩餐会の時間です」
「よし! 行こう!」
僕はジュンの腕に腕を絡めて、頬を擦り寄せた。
「それはやりすぎです。人前では主人に甘えたりしないものです」
「そっか」
「匂わす程度で行きましょう」
ジュンは舞台役者のような綺麗な顔で、にっこりと笑った。
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