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Ⅶ-1 晩餐会(領主目線)
Ⅶ-1 晩餐会 (領主目線)
大広間にはすでに大勢の人々が集まっていた。
広間の左右に長いテーブルが設置され、それぞれに王家の家臣、東の国の家臣が向かい合って座る。中央は余興のために広く開けてある。広間の奥、花が撒かれた赤絨毯の壇上に、王家と今夜の主賓である東の国の皇女の席が設けられている。
小生が席について間も無く、東の国の一行が広間に現れた。
皇女の席は当然、小生の隣である。小生は席を立ち、皇女の手をとってエスコートした。昨夜の清楚な白いドレスではなく、東の国らしいデザインの、赤と黒のドレスを着ている。滑らかな褐色の肌に漆黒の髪をした皇女によく似合っている。
「連日のおもてなし感謝いたします。領主様はお加減が優れないと聞きましたが、今夜はもうよろしいのですか」
こちらの言葉で流暢に話す。声は低く、落ち着きがある。小生が会議をすっぽかしたことを知っているらしかった。
額面通りに体調を気遣っての言葉とは思えない。暗に、昨日の舞踏会で小生が段取りを無視したことや、消えた娘との醜聞についてほのめかしているのかも知れない。
「もちろん。今宵を楽しみに、大事を取っただけでございます」
小生がにこやかに返すと、皇女も同じくにこやかに会釈した。互いに鏡を見ているようである。作り笑いの練習は、あちらも相当積んだらしい。
年は小生とそう変わらないのだろう。緑がかった金色の目で、瞬きもせず、じっと人の顔を見て話す。人生の墓場入りを決意してこの場に臨んでいる小生だが、それは皇女にとっても同じなのかもしれない。
楽師達が音楽を演奏し始める。料理が運ばれてきた。
孔雀の羽で飾られた焼き肉、果物、プディング、焼いたり蒸したりした魚料理など、一皿一皿恭しく列をなした給仕たちによって運び込まれる。最初に王、それから貴賓たちの元に献上されてから、切り分けられる。毒味たちが突き回した料理が、冷め切った姿で小生たちの皿に盛り付けられていく。
ワインや料理も行き渡り、家臣たちのテーブルにも賑やかな談笑が広がり始める。小生も、皇女に当たり障りのない会話を振る。皇女もまた、当たり障りのない返事を返す。
巨大なケーキが運び込まれる。砂糖菓子で飾られた鷲の形で、東の国へのオマージュだ。この菓子を取り分けたところで、一つ目のコースが終わる。
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