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旅芸人がやって来て、広間で歌や踊りを披露する。皇女はさも楽しそうにそれらに目を向ける。
「この歌、私の国とは旋律や節回しは少し違うけれど、知っています。心が安らぐわ」
「お気に召しましたか?」
皇女は頷いた。
「気に入ったと言えば、舞踏会での領主様のダンスを超えるものはありませんが」
皇女はチラと小生を見て、また旅芸人たちの方を見やりながら言った。
「我が国の音楽をあんなに軽快に踊られるなんて……昨夜、実は興奮して寝られませんでした」
昨日のアリスさんとのダンスのことを言っているのだ。小生は平静を装うが、顔が赤らんでいく自覚はあった。
「喜んでいただけたのなら本望です」
「嫌味ではないのですよ。本心です」
皇女は初めて目を細めた。
「なんて面白い王子様だろうと」
そう言うとナプキンで口元を隠し、肩を震わせて本当におかしそうに笑った。
「私はダンスが苦手なの。こうして見ている方がよっぽど楽しい」
それを皮切りに、皇女は自分がいかに憂鬱な気持ちで舞踏会に参加したか、小生にすっぽかされた後、どんなにホッとしたかを矢継ぎ早に語った。
小生は皇女の盃が空になっていることに気がついた。
給仕を探して広間を見渡した時、ジュンの姿に気がついた。家臣たちのテーブルに座り、いつもの顔で淡々と食事をとっている。
その周辺に、覚えず金色の髪を探している自分に気が付き、慌てて目を逸らす。こんなところにアリオトが来ているわけがないのに。
小生が小さく手を挙げて皇女の方に目をやると、気がついた給仕が急いでやってきて、皇女の盃にワインを注いだ。
「領主様はどこであの踊りを習得なさったの」
「いえ、あれは……相手の方に合わせていただけで」
「まあ、あの青いドレスの方?」
再び満たされた盃をとって、皇女は小生に笑いかけた。小生は敢えて何でもないことのように笑顔で頷く。
「なるほど……納得ですわ」
何が納得なのかわからない。こうやって、じわじわと探りを入れるつもりなのだろうか。
女性との会話は正直苦手だ。言わんとするところが要領を得ない。とりあえず会話を打ち切り、余興に気を取られたふりをした。
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