Ⅶ-1 晩餐会(領主目線)

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 小生は手に取った盃をひっくり返し、ワインを盛大にこぼしてしまった。  しばらくはてんやわんや。給仕たちがクロスを持って四方八方から駆け寄ってきた。執事は呆れ顔で小生の粗相を見守っている。 「……失礼しました」  小生の頭が落ち着くよりも先にテーブル周りは落ち着いてしまった。小生はまだ、混乱したままで席に着く。 「姫君、先ほど……私になんとおっしゃいました?」  小生は動悸を抑えて皇女に囁く。皇女は微笑みを浮かべて小生を見つめた。 「シブヤは平和な国ね。土地は豊かで、四季の移ろいも穏やか。人々は皆さん、温厚で親切」  話を逸らされた。皇女は何事もなかったように食事を続けている。余興を挟んで、二つ目のコースが続々と運び込まれているが、小生の食欲はすっかりどこかへ行ってしまった。 「それは……貴国も同様でしょう」 「東は平和に見えても、周りを異民族に囲まれております。行使することはなくとも、周囲を黙らせるだけの圧倒的な軍事力と諜報が欠かせないの」  可憐な口はひらひらと料理を収めては、淡々と不穏な言葉を吐く。 「王宮では、身内での争いも絶えません。私も二の姫として生き延びるために、諜報には相当な力を注いできました」  小生は言葉もなく、皇女の横顔を見つめていた。 「あのおふれが取り消されてしまったのは残念だわ」  皇女は細い指で葡萄の実をもぐ。 「私が褒美にあずかれたかもしれないのに……」    
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