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Ⅶ-2 皇女の頼み (領主目線)
Ⅶ-2 皇女の頼み (領主目線)
「私が褒美にあずかれたかもしれないのに」
そういうと皇女は小さな葡萄を皮ごと口の中に入れた。
「どういうことです」
しばらくの沈黙ののち、小生はやっとそれだけを尋ねた。聞くのが怖かったが、放置する訳にもいかなかった。
「諜報部員を使うまでもなさそうだわ。私、あの方をこの滞在中に見つける自信があるわ」
皇女は小生に顔を近づけた。小生も自然と顔を寄せ、聞き漏らすまいとする。何を言い出すやら見当もつかない。
「昨日のダンスのお相手は、私が想像するに、少年、しかも船乗りの息子か何かね」
「なぜそのような突拍子もないことをお考えに……」
「消去法よ。貴族でもない、国内の娘でも、旅人でもない……すると後は男性しか残らないじゃない。あの華奢なお姿からして、少年かもしれないとは思っていたの」
小生はただ黙って盃をあおることしかできなかった。
「でもそれはありえないと思っていました。あんなに愛らしい少女になりきれる少年がいるとは信じられなくて……」
それは小生も、温厚で親切なシブヤの全国民も同意だろう。
「私、綺麗な少年には目がないの。いろんな国のお小姓を集めて、目の保養にしているくらい。だからこそ信じられないの。どんなに綺麗な男の子に女装をさせても、普通はすぐにボロが出るものだから」
昨夜、自らも女装を経験した身として、それは痛いほど良くわかる。
「だけど」
皇女は扇を広げて口元を隠しながらさらに顔を近づけて言った。
「船乗りのダンスを踊れるというなら、やっぱりあの方は男の子と考えるしかなさそう」
「船乗りのダンスとは、何なのですか? 私は聞いたことがないな……」
「当然だわ。海に出たことのある男しか知らないはずよ」
皇女はまつ毛を伏せ、優しい表情になった。
「……貴方のように、見聞きしたり、習ったことのある女性はいるはずです」
「それはないの」
「なぜです」
「女性には教えないことになっているのよ」
小生は怪訝な表情を浮かべてしまったらしい。皇女は小生の顔を見て苦笑する。
その瞬間、脳裏に閃くものがあった。小生は皇女の耳元で大真面目に言った。
「皇女様……もしやあなたは男性なのですか?」
「ちょっと。そんな訳ないでしょう?!」
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