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「大事な話?」
「私がこの国にやって来た理由について、です」
もったいぶった話ぶり。いよいよ、小生との結婚の話になるのだろう。
皇女の言葉に頷きながら、小生の目は、給仕する少年たちを追ってしまう。
大人に混ざって、食器を運んだり、飲み物を注いだりと給仕の簡単な補佐役をしている。キビキビと手慣れた動きをしているものだと感心する。
王に近侍するトーマも、かつては小姓だった。10代後半になると騎士見習いや侍従となるのだ。今はチャラチャラしているトーマも、昔はあのようにしっかり仕込まれてきたのだろうと思うと可笑しい。
その中に、先ほどの黒衣の小姓を見つける。
スープの入った皿を持って、ジュンの席に運んでいる。おっとりとした物腰は、やはり他の小姓たちとは違う雰囲気がある。すらっとした手脚に、柔らかな白金の髪。顔は見えないが、遠目にシルエットを見るだけで、小生の胸は高なってくる。あれがアリオトならどんなにいいか。
「私、とある人物から、王妃様への手紙を託されて参りました」
「手紙?」
意外な言葉で我に返り、皇女を見る。今、小生は何を考えていたのだろう。大事な話を無視して、遠くの少年を眺めているなんて。いくら酔っているとはいえ、皇女を蔑ろに扱って禍根を残さぬはずがない。
「王妃に取り次ぎましょうか」
「いえ……貴方にまずご相談がしたいの。ここでは申し上げにくいこともございます。後日、お話できる時間をくださいませんか」
さっきまでのほろ酔い気分はどこへやら、皇女は真剣な顔で小生を見つめていた。何やら緊迫した様子に、小生の浮ついた心も少し引き締まる。
「姫君は、貴賓館に泊まっておいでですね」
「ええ」
「明日にでも伺いましょう」
「そうしてくださると嬉しいわ」
皇女は頷いた。小生は執事を呼ぶと、明日の午後、皇女の泊まる館へ訪問することになったから、スケジュールを調整しておくようにと頼んだ。なんだかんだと普段なら文句を言う執事が、今は皇女の手前もあってか、二つ返事で承知した。
「ほっとした。貴方が話せる方でよかった」
皇女は満足げに微笑んで、再びナイフとフォークを持った。
「ようやく食事がまともに味わえる気がする」
「今から? もう無理なさらないでいいですよ」
すっかり満腹に達した小生を尻目に、皇女は給仕される料理を次々と平らげていった。
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