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「ねえ、ナル。もう帰ろう……」
わたしが言いかけたとき、周囲の空間が凍りついた。あらゆる音が聞こえず、風に舞う木の葉が空中で静止している。これは、ナルの力ではない。そう確信したのは、わたしとナルに近づいてくる人影があったからだ。
「やっと見つけましたよ、ナルリア」
白いタキシードに身を包んだ短髪の男は、抑揚のない声でナルに話しかけた。その雰囲気には覚えがある。あの日、わたしのアパートに現れたナルと全く同じだ。
ナルは不安そうな顔で男を見つめている。目の前にいるのは、ナルと同じ神だ。少し前なら歓迎するところだったが、今は事情が異なる。
「あなた、神様ですよね? 用があるのはわたしではないんですか」
男がこちらを一瞥する瞬間、わたしは視線を逸らした。まだ、記憶を消されるわけにはいかない。
「我々のことを認知しているとは。ナルリア、これはどういうことですか」
「わたしはナル。あなたはどなた?」
ナルが聞くと、ほんの少しだけ、彼の表情が歪んだように見えた。
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