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「少しだけ待っていただけませんか。忘れる前にあなたの事を知りたい」
「わたしのことを知ってどうすると」
「ナルは家族と離れて寂しそうだったんです。あなた、この子の家族だったりしませんか」
こんな時に限って、ジッパーが固くて開かない。わたしは必死に呼吸を整えた。ここでしくじったら、全て失ってしまうのだから。
「家族。人間社会の概念と認識しています。原初の時より個として存在する我々には、何の意味もなさない」
「でも、管理人の仕事をしているのなら、仲間意識みたいなものはあるでしょう」
「我々は、与えられた役割をこなすのみ。無用な繋がりを必要としません」
聞いていて、胸の中にモヤモヤしたものが沸いてくる。この不快感はなんだろう。以前のわたしなら、こんな考え方をしただろうか。
「さあ、もういいでしょう。こちらを向きなさい」
体の奥まで響くような低い声だった。このまま抗い続けることは無理だと、本能が教えている。人間は創造主に逆らえないように作られているのだろう。だけど、わたしはただでは終わる気はない、出来る抵抗はしてやるつもりだ。
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