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Present.1
7月15日。1限目終了。3年1組教室。
社会の授業が終わり、「よっしゃ、日直日直ー」と高中努が黒板に突進していった。
――高中くん、ちゃんとノート写せたのかなー。
多分、写せているとしても、後日「あれー、これ何て書いたんだっけー?」という声を発するのを容易に想像できてしまう。
クラス一、体の大きい高中は、黒板消しでこれでもかというほど大きく円を描く。高中の動きに合わせて、チョークの跡が黒板消しに飲み込まれるように消えていくのを何気なく観察していると、後ろの方から「あ、そこまだ消さないで!」という悲鳴が響いた。
声のした方をちらりと見やると、不破紗菜が前を向いて鉛筆を握り締めていた。
――スズナ、まだ鉛筆なのかー。
紗菜はクラスの中でも色んな意味で少し遅れ気味だと囁かれている。中学に入ってシャーペンを使えるようになってからも、「おじいちゃんが鉛筆にしとけって。芯が落ちたり引っ掛かったりカチカチうるさいからって。鉛筆だと削るの面倒なのに……」と言いつつ頑なに変えようとはしない。
どちらがいい悪いというわけではないと思うが。
――自分が使う文房具なんだから、自由に使わせればいいのに。
初美は紗菜のそうした状況が、今の自分によく似ていると思いながら、若干冷めた気持ちで彼女の持つ鉛筆を眺めた。
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