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「えっと…義理の兄は、俺の従兄弟です」
「従兄弟?ほら、白峰!従兄弟だって!」
「…従兄弟?」
白峰、泣きそうじゃねぇか!
可哀想に!
「そうなんです。話すと長くなるんですが、従兄弟が養子として、俺の兄になってくれまして、父の跡はその人にお任せしてるんです。驚かせてしまって、すいません」
「良かったな、白峰」
「はぁ…いや…別に、そういう可能性もあるんだけど……ちょっと、心の準備が出来てなかったから…」
抱き締めて、よ~しよしよしって、頭撫でてやりて~
…にしても、養子って…よっぽどの理由だよな
「姉さんが、白峰さん以外と結婚の可能性なんて、ほんの少しもありませんので、安心して下さい」
「そ…そうですか」
良かったな
あんだけの話してて、結婚してたらビックリだわ
「従兄弟は、少し変わった人でして…俺のせいで、俺が在るべき環境に連れ出されてしまったんですが…」
「よく一人息子が居るのに、そんな話になったな?」
息子が居るの、社員だって知ってる訳だろ?
従兄弟とは言え…どういう状況?
「……俺は、この世界の異常さに気付いていながらも、姉さんみたいに飛び出す事なんて出来ませんでした……仕事はいいんです。けど…自分が結婚して、あんな家庭を作って、子供にあんな思いさせて…って考えると、吐き気がすると言いますか…」
結婚生活想像して吐き気…
どんな家庭環境だよ
「結婚する気ない…自分の子供つくる気ない…そんな跡継ぎ役立たずですから……自分から願い出たんです。勿論、何を馬鹿な事をと、取り合ってもらえなかったんですが…ことごとく、そういった話を断り続けてたら、ようやく頭おかしいのか?と話す気になってくれました」
それ…
話す気になったって言えんの?
「何を言っても、何度話しても、頑として意見を曲げない俺に、相当憤慨してました。姉さんは家出、俺は結婚しない、跡継がない…両親は、当たり前ですが…かなりしつこく色んな手を使ってきましたが…そのうち諦めました。粘り勝ちです」
「……そんな事して…よく家…ってか、会社から追い出されなかったな」
旭陽自身、居心地悪いんじゃねぇの?
一人息子なのに、急に従兄弟が出てきてとか…
「それで出されるなら、それはそれでいいと思ってました。けれど、見栄なのか何なのかは、分かりませんが…俺は日本以外の場所での仕事を命じられました」
「…へぇ」
日本以外だって、立派な会社なんだろうさ
そんなスーツが普段着になる様な生活なんだろうさ
けどまあ…
旭陽は旭陽で色々あったんだな
「親戚も皆両親みたいな人間ですが、唯一そんな世界と無縁の、変わり者と言われてた従兄弟が選ばれた時は…さすがに俺も驚いて…申し訳ない気持ちになったのですが…」
「その変わり者って、どんなんなんだ?」
その世界の変わり者であって
俺達からしたから、たいして変わってないのでは…
「天海のブランドに全く興味がなく、全然畑違いの技術職をしてて…なんか、大学卒業旅行はバックパッカーで世界回ったり…今度はアフリカの何処かの村に行ったとか…そんな噂ばかりの従兄弟でして…」
「そりゃ、ちゃんと変わり者だな」
「けど、何度か会ったその従兄弟は、人間味があると言うか…まさか、あの人をこの世界に連れ出すなんて…」
つまり、人間味のない人達の集まりなのな
話聞いてりゃ分かるけど
「でも、考えてみたら納得と言うか…天海に興味のない…全くそういう世界に居なかった従兄弟は、傀儡として好都合だったんでしょう」
「ああ…そういう…」
「ところが…その従兄弟は、ほんとに変わってて、最初は嫌がってたものの、最終的に承諾して養子になると、傀儡どころか、突拍子もない言動を次々として…」
「へぇ...」
バックパッカーで世界回ってりゃ、怖いもん無しなのか?
最終的に承諾して養子になる自体すげぇけど
「周りは振り回されるし、本当に困り果ててた様ですが、息子を日本から追い出し、今度は養子を早々に籍から抜くなんて、出来なかったんでしょう」
「飼い犬に手をかまれる…か」
自業自得だな
「ゴタゴタしながらも、どうにも出来ない状況の中…次第に従兄弟の周りに人が集まる様になっていくんです。彼の人柄に、信頼を寄せる人達が出て来て…すると、突拍子もない言動も、ちゃんとした根拠がある事が分かり…それは、新しい事業のヒントになるのではと…親にとって、邪魔でしかない存在になった彼は、自分の力で自分の居場所を獲得したのです」
「すげぇな。そいつ、何処でも何しても生きてけんな」
「はい。今は、俺のいいパートナーです」
「へぇ...」
そこは、仲いいんだ
なんか複雑…
「んじゃ、結婚しない人生選んだのか。まあでも、彼女は居るんだろ?好きな人もできないとかじゃないんだろ?」
「この歳になると、結婚考えずにお付き合いって難しいですね。そういうの考えると、仕事してる方が楽と言いますか…」
「ああ…なるほど」
姉は、10代で子供産み
弟は、一生結婚せずか
「真優…旭陽君…じゃなくて、旭陽さんに彼女ができたって、凄く嬉しそうに話してました」
「年下ですし、君で構いません。姉さん…俺にも聞いてきてました。そんなの、恥ずかしいから、わざわざ聞かないで欲しいのに…」
「俺も、姉にそんなの聞かれたくないよって、言ったんですけど……凄く嬉しそうに話してました」
「あの時は、恥ずかしいでしかなかったけど……そうですね…今思えば、いい思い出です」
真優さんを通して、同じ時の思い出あんのか
それは…お互いに嬉しいだろな
「付き合わなくても…いいと思います。でも、好きな人は…居た方が幸せかなとか…思います」
「……白峰さん…好きな人が居るんですね?」
「あっ…あのっ……真優の事は、ずっと大切です。もちろん雪君の事も…」
「いえ…責めてるつもりじゃないんです。姉さんはもう居ません。元々、白峰さんの人生奪う気はないと言っていた姉さんですから…白峰さんが、幸せに生きてくれた方が喜ぶと思います」
「……ありがとうございます…」
そうそう
話分かる奴じゃん、旭陽
「葉山…」
え…
いや…ここで、そんな顔して俺を呼ぶ?
ちょっと…
めちゃくちゃ抱き締めて、キスしたいけど
…って…白峰さん?
手…
俺の手に重ねちゃってますよ?
これ…
旭陽に見えてない?
恐る恐る…ちろりと旭陽を見ると
瞬きを忘れて、こっちを見てる旭陽が居た
はい…
アウト~…
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