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彩雪side
立派なあの家にピッタリなスーツで現れた旭陽君は
俺を責めるんじゃなく
謝ってくれた
俺の為に頭下げて
真優の事…色々教えてくれた
あの日からの空白だった日々が
少しずつ埋まってく
ずっと抱えてた罪悪感が
だいぶ軽くなっていく
旭陽さんは
この為に来てくれたんだろう
俺を救う為に…
産まれてるとは思ってなかった
我が子の幼い頃からの写真
今だって充分可愛いのに
可愛い過ぎて
何度か口元から垂れてないか確認した
俺の知ってる真優からは想像出来ない
質素な格好をした真優
周りに写ってる物は
どう見ても、真優より俺にお似合いだった
雪君の話聞いてたって
相当苦労したのは分かってる
何も知らずに笑ってる雪君も
きっと色んな事気付いて
不思議に思ったり、悲しかったり、寂しかったり
そうやって成長していったんだ
少しずつ
可愛い顔のまま、しっかりとした表情になってく雪君
色んなものが見えてきた時
優しいあの子が、俺を憎まずには、いられなかっただろう
だけど、真優と雪君の何気ないとこを写した写真達は
中学生になっても
高校生になっても
とても、思春期の息子と母とは思えない程
楽しそうに嬉しそうに写っていた
まるで友達みたいな
恋人みたいな
きっと…
無責任な父の代わりに
頑張ってくれてたんだろう
確かに、こうして写真で見ると
自分の高校時代に、少し似てるかもしれない
俺の事…ずっと想ってくれてたなら
雪君が、俺に似てくれたのは…
真優にとっては嬉しかったのかな
雪君にとっては、いい事なんてないだろうけど…
こんな風に2人で支えながら生きてきたんだ
凄いな真優
辛い思いも、悔しい思いも、沢山したろうに
毎日毎日疲れ果ててたろうに
あの頃と同じ、いつも笑ってる姿
でも、今ならちょっと分かる
どんなに最悪な1日でも
家に帰ってあの子に会えたら
きっと、それだけで幸せになれるんだ
凄いな…雪君
「かっ…母さんっ……俺のせいでっ…死んじゃったっ……俺のせいでっ…」
全然雪君のせいじゃないのに
凄く大切だったから
ほんの少しの事でも、そう思ってしまうんだね
どれだけ泣いたんだろな
旭陽君が居てくれて良かった
葬儀の時、何があったんだろう
旭陽君が居なくなって1人で
何処…いこうとしたのかな…
あっという間に見終えてしまった
もう1回…いや…
もう10回は見返したいと思ってたら
旭陽君が、データ送ってくれるとか言ってくれた
そんな幸せってある?
毎日、俺の知らなかった頃の
真優と雪君を見返せる
もう、どんなに忙しくて疲れても大丈夫な気がする
また、すぐにイギリスに戻らなきゃという旭陽君と、連絡先を交換する
あれ…
なんか、そういうんじゃないけど
葉山の前で、こういうの…
ちょっとドキッとする
雪君の大学や、このマンションの事
どうしても、真優の残してくれたお金と、奨学金で
出来る限り旭陽君の援助じゃなく、自分のバイト代で頑張ろうとしてる事
アレルギーや持病はないとか
簡単に、とりあえず今知っておいた方がいい事を、教えてくれた
一通り話が終わって落ち着き
俺の隣に戻ってきた葉山が、突然旭陽君に
結婚してるのかとか…聞き出した
そんな…
初対面でいきなり、プライベートな事…
そう思ったけど
旭陽君は、気にする様子もなく答えてくれた
ちょっと、ほっとして聞いてると
「…うちの会社は、義理の兄が継ぐ事になってるんで」
え……今…
義理の兄って言った?
義理の兄って…旭陽君の義理の兄って事は……
つまり……
「ぎ…ぎ……義理の兄って……ま…真優の…」
「旦那って事?!」
「だ…旦那……真優の…旦那さん……」
真優の……
旦那……旦那さん…旦那……旦那さん…
あれ…
なんか…何も考えられない
真優の…旦那さん…
「ほら、白峰!従兄弟だって!」
葉山の声にハッとする
「…従兄弟?」
従兄弟=義理の兄になったっけ?
まだ頭が回らない
そんな俺に旭陽君が説明してくれる
養子…
そっか
そうなんだ
真優の行動からも、旭陽君の話からも
真優が雪君と暮らしてても
結婚相手が居たなんて事実も、あり得そうで…
真優が…ちゃんと好きな人ならいいけど…
「姉さんが、白峰さん以外と結婚の可能性なんて、ほんの少しもありませんので、安心して下さい」
ほんの少しも…
旭陽君が、そう言ってくれる程に
真優は、想ってくれてたんだ
葉山が、少し変わった従兄弟さんの事を聞くと、旭陽君が話し出す
へぇ...と聞く葉山を見て、ふと思う
彼氏が、元カノの結婚を知ってショックを受けてるとか…どうなんだろう
葉山は、俺達の事情知ってるし
何より優しい大人だから
そんなの気にしてないのかもしれないけど
葉山の前なのに
ちょっと…取り乱し過ぎたかもしれない
こんなんだったかな
常に、相手がどう思うかなって考えて
ああすれば良かったかなとか
どうすれば喜ぶかなとか
葉山…いつの間にか、敬語じゃなくなってる
けど…
なんか憎まれないって言うか…
それが葉山の自然体で、気を許してる証拠って言うか…
人と仲良くなるの、上手いんだろなぁ
「この歳になると、結婚考えずにお付き合いって難しいですね。そういうの考えると、仕事してる方が楽と言いますか…」
分かるなぁ
俺も、この歳になってから
もう一度恋愛とか、考えもしなかった
けど…
「旭陽ね~。きっと彼女できた。この前聞いたら、顔真っ赤にして可愛いんだ~」
「姉に聞かれたら、そりゃ恥ずかしいんじゃない?」
「だって、だって、聞きたいじゃない!はぁ~…どんな子かなぁ」
「年下とは限らないんじゃない?」
「えっ?私達より年上?!」
楽しそうに、嬉しそうに話してた真優を思い出す
「真優…旭陽君…じゃなくて、旭陽さんに彼女ができたって、凄く嬉しそうに話してました」
そんな風に思えるのは
俺と居て、楽しかったからって思ってくれてた?
「あの時は、恥ずかしいでしかなかったけど……そうですね…今思えば、いい思い出です」
旭陽君も、覚えてるんだ
楽しそうで、ちょっといたずらっ子みたいに笑う真優…
俺もね、今…そういう気持ちだったなって思い出してるよ
葉山と居て
真優と居る時、こんな風に嬉しかったな、楽しかったなって思い出してるよ
「付き合わなくても…いいと思います。でも、好きな人は…居た方が幸せかなとか…思います」
「……白峰さん…好きな人が居るんですね?」
しまった
俺の立場でそんな事…
俺だけ先に幸せになってるみたいな
きっと
いい気分じゃない
「あっ…あのっ……真優の事は、ずっと大切です。もちろん雪君の事も…」
真優も、雪君も大切
それだけは、ちゃんと伝えなきゃ…
「いえ…責めてるつもりじゃないんです。姉さんはもう居ません。元々、白峰さんの人生奪う気はないと言っていた姉さんですから…白峰さんが、幸せに生きてくれた方が喜ぶと思います」
凄く俺にとって都合のいい言葉で
そんなの鵜呑みにしていいのかって、思うけど
けど…凄く真優っぽい
それに…
この好きな気持ちを
葉山の前で、否定したくない
「……ありがとうございます…」
それが、正しい答えかなんて分からないけど
嘘は吐きたくない
優しい心で真っ直ぐに生きた真優みたいに
「葉山…」
真っ直ぐ正直に
誰に何を言われても
強く…強く…
気付くと俺は、葉山の手に手を重ね
驚いた顔した葉山が、俺を見ていた
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