天使みたい

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「天使みたいな君と、付き合いたいです」  目の前の男子に言われ、私は首を傾げた。  まあ、『みたい』と言っているのだから、天使ではないことは相手もわかって言っているのだろう。  ただ、では天使とは果たしてなんだろうか。  羽が生えていてとりあえず空を飛んでいる?  白い薄い服を纏い、手はふわっと浮かせている?  目は薄く開いている? いや、閉じているのか?  性格はなんとなく清い?  日本語をしゃべるのか?  髪の毛の色は何色だ?  性別は女性なのか?  というか、確実に私に天使の要素はないな。  つまりお返事は、 「私は天使みたいじゃないです」  男子の横をすり抜け、数歩進んだところで足を止める。  はて。 本当に今の返事で良かったのだろうか。  そもそも問題の本質を間違えてはいないか。  天使なのか、ではなく、付き合うかどうかを考えなくてはいけないのではないだろうか。  私は振り返る。  目には項垂れた男子の姿。    うーん……。  首を傾げて考える。  5秒、考えた。  うん、タイプじゃない。  私は「付き合えません」と丸まった背中に声を掛けた。  ビクっと背中が反応する。  聞こえたということだろう。  私は前を向き直した。  白い制服のブラウスが窓からの日差しに照らし出される。  不意に入った光が眩しくて、つい目を瞑る。  それから、ふわり手を目元にやった。  うん。  なんとも清々しい。  そして私は、微笑んだ。
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