0人が本棚に入れています
本棚に追加
クリオネが流れ着いたのはごつごつした岩場でした。
「あらら、随分流されちゃったな」
きょろきょろと周りを見ていると、岩の間で何かが動いているのが見えました。
「困ったなぁ。困ったなぁ」
岩に挟まってもがいているのはホタテです。クリオネが「大丈夫?」と声をかけると、貝殻をぱくぱくさせて目を覗かせました。
「あっちへ行こうとしても、こっちへ行こうとしても、岩があって困っているんだ」
「それは大変だ。でも、ぼくの力じゃホタテさんを押し出すことはできないや」
「困ったなぁ。困ったよう……」
ホタテは体を震わせて、ぽろぽろと涙を零します。その涙は海の水とすぐに混ざって見えなくなってしまいました。
クリオネは泣いているホタテのことを見ることしかできません。そしてしばらく一緒に困ってから、はっと顔を上げました。
ダンゴウオが、ついこの間ホッケに会ったと話をしていました。ホッケならば、ホタテのことを岩の間から押し出せるかもしれません。
小さなクリオネにとっては昆布の森から岩場までは遠く離れていましたが、ホッケにとってはさほど離れていません。ホッケにとっての「この辺り」に滞在しているのなら、まだ近くにいるかもしれないのです。
「ホタテさん、もう少し頑張って。ぼく、ひとを探してくるよ。待ってて」
「優しいクリオネくん、ありがとう。もう少し頑張るよ」
泳ぎ出したクリオネの背中を見て、ホタテはほろりと涙を零しました。
ふわふわ。
最初のコメントを投稿しよう!