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クリオネはたくさん泳ぎました。ひらひらの腕がくたびれてしまうくらい、長い距離を泳ぎました。
「こんにちは。こんにちは! ホッケさんはいませんか? ホッケさんを知りませんか?」
泳いでいる小魚達に呼び掛けます。行ったり来たりしていた小魚達はクリオネの声に耳を傾け、伝言ゲームをするように群れの奥へ、群れの外側へ、クリオネの言葉を広げてくれました。
すると、小魚の群れを割るようにして大きな影が現れました。どんどん近付いて来ます。ホッケです。
「おい、おれを呼んだのは誰だい?」
「こんにちは、ホッケさん」
「やあ、小さなクリオネくん。おれに何か用かな」
見付かってよかったね、と言って小魚達は去って行きました。
クリオネはホタテのことをホッケに話します。すると、ホッケはクリオネのことなんて一口で食べてしまいそうなくらい大きく口を開けて驚きました。
「それは大変だ!」
ホッケはクリオネの手を掴むと、「案内してくれ」と言って泳ぎ始めました。ぐんぐん速くなり、クリオネは自分の知らない速さに震えました。怖かったけれど、ちょっぴりわくわくしました。
ホッケに引き摺られながら、クリオネはあっという間に岩場に戻りました。ホタテはまだしくしくと泣いています。
「ホタテさん、ホタテさん。ホッケさんを連れて来たよ」
えいやっ!
ホッケが力いっぱい押したり引いたりすると、見事、ホタテは岩の間から抜け出すことができました。
「あぁ、ありがとう。ありがとう、優しいクリオネくん、たくましいホッケさん」
「よかったね。次は挟まらないようにね」
ホタテはしばらくお礼を繰り返してから、どこかへ泳いで行きました。ぽろぽろと零していた涙はもうありません。
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