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寒い寒い北の海に、一匹のクリオネが住んでいました。ふわりふわりと水の中を泳ぎながら、今日ものんびり過ごしています。
昆布が揺れている森に立ち寄ったクリオネに、誰かが声をかけました。
「やあ、そこ行くクリオネくん。ちょっと聞いておくれ」
昆布にくっついて揺れているのはダンゴウオでした。体が丸くて、目もまんまるです。まんまるの目がクリオネのことを見ていました。
「こんにちは! ダンゴウオさん」
クリオネは元気よく挨拶をします。
「こんにちは、クリオネくん」
「お話、なあに?」
「きみ、知っているかい? ニンゲンはきみ達のことを天使って呼ぶんだってさ。流氷の天使って」
「天使?」
聞いたことのない言葉に、クリオネは首を傾げました。天使ってなんだろう?
言葉の意味を訊くと、ダンゴウオは昆布と一緒に揺れながら首を横に振りました。
「それはおいらにも分からないんだ。でもね、きっと素敵な意味さ。ついこの間、ホッケがそうだって言ってたぜ」
「へえ、そうなんだ。ぼく、天使って気になるなぁ。てんし。テンシ。天使かぁ」
初めて聞いた言葉を繰り返し呟きながら、クリオネはまだ見ぬ天使の姿を思い浮かべました。それは魚の形をしているかもしれません。それとも、自分のように貝の仲間かもしれません。もしかしたら、アザラシに似ているかもしれません。
もう少しダンゴウオとお話をしたかったのですが、びゅうびゅうと流れてきた水に押されてクリオネは流されてしまいました。昆布の森が遠くなっていきます。小さくなっていくタンゴウオが、またねと手を振りました。
ふわふわ。
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