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それがなんということだろう。眼下に広がる街の風景を惜しむ余裕もないほどのスピードで、僕は天国への階段を昇っている。だから虹色の踏み板の美しさに心を奪われる暇すらもちろんない。
「ぐだぐだ言ってねえで、さっさとしろ」
僕が一歩を踏みだすあいだに、二歩も三歩もぐんぐんと進み、天使がせかしてくる。
「血も涙もないんですか」
「天使だからな」
ごもっともな答えに、僕はぐうの音も出ず、黙々と階段を昇った。
どれくらい経ったのか、いや、死んでしまったから時間の概念なんてあってないようなものだけど。
目の前に荘厳な神殿が現れた。
「着いたぜ。天国だ」
天使はヤニで黄色くなったと思しき歯をニッと見せつける。
つかつかと僕に歩み寄るなり、僕の手をつかみ、むんずと引っ張った。そのまま神殿の扉を蹴破り、中へと入っていく。
広間は、きらびやかなシャンデリアで照らされていた。が、その照らされてキラキラと輝いているのは、飲み散らかした酒の空き瓶だ。壁にはさまざまな格言らしきものが記されている。ありがたい言葉なのだろうが、なにを書いているのかさっぱりわからない。というより、よく見ると、スプレーで上からラクガキをされている。
天使に案内されるまま、僕は周りを見渡した。他の天使はいないのだろうか。もっとマシな天使は、と僕の切なる願いは、しかしながら、容赦なくぶった切られた。
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