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天界と呼ばれる場所に着いたらしく、私達は翼を畳んで舞い降りた。
そこは芝生のような背の低い草が生い茂る、カーペットのように気持ちの良い、広大な空間だった。石が積まれた神殿のようなものがポツポツと見える。これが天使たちの居城なのだろうか。そんなことを考えていた。
そんな中、私の方を見つめる集団があった。カトリエルは私の手を引くと、その天使たちの群れの中に私を誘った。
その集団の真中には、一人膝を抱えて座り、羽を大きく広げている天使の姿があった。そして不思議なことに、その周囲の天使たちは、皆悲しげな表情を浮かべて、涙を流している者もいた。
「サトウル、この子が新しい天使よ」
カトリエルが座っている天使に声を掛ける。顔を上げたサトウルと呼ばれた天使は、涙を浮かべながら私の方を見た。
「……あなたが、新しい……。名前は、何ていうの」
「え、あの、アライ・ルナと言います」
「そう。ならばきっと『アライル』という名の天使を授かる運命だったのね」
「最後のナが消えているだけなのですが、そんな感じのネーミングなのですか」
私、アライルが苦笑交じりに言うと、サトウルは笑った。
「私もそんなことを言った記憶があるわ。名前は思い出せないけれど、きっとサトウなんたらっていう名前だったのね」
「ああ……そういう感じなんですね」
「そうね。そして今度は、どんな名前になるのかしら」
サトウルはうつむいてしまった。
すると突然、カトリエルがサトウルの片翼を掴むと、力いっぱい引き抜いた。ブチンという破裂音を響かせながら、サトウルは翼をもがれた。
「ちょ、何してるんですか!?」
「天使はね、一人増えたら一人減る決まりなの。サトウルが減ることは決まっていた。また人間に、現世への旅に戻る」
そう発しながら、カトリエルはもう片翼も引き抜いた。
「サトウル!!!」
「元気でね、またいつかね!!!」
「忘れないから!!!」
涙ながらに取り巻きの天使たちが声を上げる中、サトウルの姿は薄くなって、光の粒子のように美しく消え去っていった。
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