人間と天使

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人間と天使

 自分が命を失う瞬間の感覚を認識しながらも、どこかそれが夢であるかのような浮遊感を覚えた。  眠りに落ちる時の感覚に似てはいたが、痛みもあったし苦しさもあった。ナイフで突き刺されたのだから当然だ。  でも不思議と落ち着いていた。不快感もなかった。 「私、人のために生きられたよね」  心のなかで自分に問いかけた。きっとそのはずだ。現に今、子供が暴漢に襲われるのを身を呈して救うことが出来た。私の二十四年足らずの人生は終わりを迎えてしまいそうだが、別にそれで良いと思った。  出来ればもう少しこのデパートで働きたかったし、結婚して子供を産んでみたかった。親だって安心するだろうし、孫の顔を見せるなんていう分かり易い親孝行をしてみたかった。  おぼろげにそんなことを考えた時、私は自分が最大の親不孝をしてしまったことに気が付いた。そこで初めて、死というものへの後悔みたいなものを感じた。  でも、もう手遅れだ。それはなんとなく分かった。  自分の背から流れる血液の生ぬるい温度を感じながら、冬場に布団に入った時に徐々に温まっていく感覚に似たものを感じながら、私は息絶えた。
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