人間と天使

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 目が覚めると、私は知らない場所にいた。  光彩に違和感を覚え「周囲が妙に白い」というのがここでの最初の感想だった。身を起こした私の目に飛び込んで来たのは、だだっ広い講堂のような場所で無数に横たえる人間の群れ。私もそのなかの一人――いや一体と呼んだほうがしっくりくる――の中の一部だった。  隣では若い男性が横たえていた。その奥には若い女性が。またその奥にも、更に奥にも同じような光景が見渡す限り続いていた。 「え、なんなのこれ」  どこかの医療施設にしては雑だし、皆同じような白い衣に身を包んで、穏やかな表情で仰向けに眠っている。無理やり形容するならば「神秘的」だ。  直感的に、「私は死んで、ここはあの世のようなものだろう」と察した。 「――目が覚めましたか」  背後から声がした。落ち着いた女性の声だ。私は振り返る。  そこにはアニメや映画で見たような白い翼を生やした、金髪の女性。神話の中で語られるような「天使」そのものの姿があった。 「アライ・ルナさんですね」  天使が事務的な言い方でそう問うた。私は頷く。  ああ、そうだった。私はそんな名前だった。  天使は控えめに微笑むと、ついて来いとばかりに踵を返す。その動きで折りたたんだ翼が揺れた。細かい羽の一つ一つが波のようにざわめいたのを見て、作り物ではないリアルな生物の一部であるのだなと感じた。
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