人間と天使

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 私は天使の後を追い、横たえる人々を避けながら歩いた。動いてみて気が付いたが、身体が異様に軽い。やはり私は生身ではないのだろう。  ぴょんぴょんと徐々にコツを掴んだステップで、寝そべる人間を避けるのが楽しくなってきた。寝ている人間はなぜか皆、若い姿をしている。年齢で言えば成人するかしないかというところだ。私自身、昨年怪我した左手の切創もなくなっていた。生きていた時の姿のままではないのだろう。そう思った。  しばらくついて行くと、大きな扉の前で天使が立ち止まった。私はそこでようやく天使に追いついて、横に立つ。  見据えた扉は、めちゃくちゃ巨大だ。高さはマンションのようだし、横幅だって私が十人並んで通れそうなほどだ。とてもじゃないが、一人で開けられるような代物ではない。  それなのに天使は、私の方に身体を向け「さあ開けて」とばかりに微笑んでいた。いやどうしろって言うんだ。どうせなら何か言葉で指示がほしい。  私は困りながらも、どこを押して良いか分からないほど巨大な扉に手を付けて、ぐっと押してみた。やはりびくともしない。  すると天使が不思議そうに首を傾げて、どこから取り出したのか、何かの手帳のようなものをパラパラと確認し始めた。 「あら、あなたは輪廻の輪から外れているようね」 「は? 輪廻の輪?」 「生まれ変わるということ。あなたにその予定はないみたい、なぜかしら」  天使が困った表情を浮かべていると、背後から風を感じた。  振り返ると、天使が宙に浮かんでいた。やはりその翼は飾りではなかった。 「あなたの行き先はその扉ではないわ」 「カトリエル様! どういうことですか」  天使が、飛んできた天使に問いかける。カトリエルと呼ばれた天使が優しい顔つきで私の方を向いた。 「その子の行き先は天界よ」
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