第三章 「ルシフェリオン」

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第三章 「ルシフェリオン」

 武力の象徴として高い性能を有することを求められるのは兵器の常であるが、人の姿を模しているという特徴を持つ機兵という存在に対しては、ある種の象徴的な意味合いを伴って君臨してもらわなければならないと考えている。  故に弟であるエスペル=フォーランドに与えたケルベリオンは、その圧倒的な戦闘能力と国の象徴としての存在感を両立させることを目的として生み出したのである。 「儀礼的な意味を持たせようとすると、物々しい装備を付けられない点が問題ではあるけれど……それこそ、周囲が補えば済む話」  皇帝の専用機として人前に立ち、その威容を見せ付ける場面を多く想定している機体である以上は、周囲を巻き込みかねない兵器を担いで無駄に不安を煽ることは避けたいという思惑があった。  このディナイア=フォーランドこそが裏から手を回し帝国を意のままに操っているのだと、そう思わせるための象徴でもあるのだから、皇帝の印象が威風堂々であるに越したことはない。  それこそ、いざと言うときに自身を切り捨ててでも帝国を維持出来るように、である。 「とは言え、ただの武力に固執すればより強大な敵を前に引き下がるしかありません。であれば、別の角度からのアプローチをあらかじめ用意しておくことは必須と言うべきですわね」  宇宙への進出において最大の障害と認識すべきが"抑止力"と呼ばれる存在への対処であると、前もって知ることが出来たのは幸運だったと言えるだろう。  ただ、それに対抗し得る手札が不足しているという事実を前にすれば、手放しに喜べる状況でもない。  機兵という存在を根本から支配するための切り札を用意しておかなければ、敗北による足踏みに加えて資源の枯渇という再起不能の状態にまで追い込まれることは間違いないのだから。   「外部からの干渉によって敵対する機兵の支配権を奪うを能力を有した器。これの完成によって、私の計画の下準備は全て完了する……!」  リオンナイトフレーム構造と固有装備のアーマーによって高められた機体の汎用性は、物量の質を高めることを目的としたものではない。  要所に配置してパワーバランスを整えると同時に、本命であるこの機体を誰の目にも止まることなく完成させるためにこそ、これまでの技術提供を行ってきたのだ。  それは根本的に機兵を無力化出来るシステムを大々的に宣伝してしまえば、機兵による戦力を揃えることはおろか、妨害や対抗策の研究によって効果が損なわれる可能性を抱えてしまうからである。  しかし、その不安もいよいよ払拭される時が来た。 「ケルベリオンを始めとした武力によって制圧、そしてその敵を従えて更なる戦力を確保する。この、堕天の器で!」  目前に佇むのは、純白を塗り潰す漆黒の翼を有した堕天使を象る巨人。  未だ眠りから覚めないことを物語る、光宿らぬ眼差しを見上げながらその名を告げた。 「たとえ我が身が覇道を逸れ闇に堕ちようと、この時代に羽ばたいて見せましょう。この、ルシフェリオンで……!」  ここにいるのは自ら孤独を望み、心の弱さや脆さを隠して立ち上がった1人の女に過ぎない。  そして、それは誰にも語る必要のないことなのだ。  さぁ、悪の道を始めよう。 ディナイアルサーガ 完
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