志願

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志願

 リョクゼリアとアカルファンで蓄えた品々を携え、ジークルーンたちはクロイゼンへと帰還した。  時代はシロルキワとクロイゼン間の戦争……通称『シロクロ戦争』の後期である。  故郷のグルブネートは国軍が定めた最終防衛線に程近(ほどちか)く、いつこれを突破されて町が敵軍兵士に蹂躙(じゅうりん)されるかわからないため、彼らは自治都市タークナッフへ疎開し、そこで生活と商いを始めることにした。  当初は家事の手伝いに専念していたジークルーンであったが、ある日のこと、彼女は町中で一枚の貼り紙を目にした。  それにはこうあった。 『王と民のため、あなたの力が必要だ!!』  兵員の不足ゆえに国軍は兵士の募集に熱心であった。 「老師さまから学んだ技をなにかに役立てたい」と思った彼女は国軍兵士へ志願する。  この際、父親は反対しなかったため、彼女はすんなりと軍へ入隊することができた。  また、このときに彼女と一緒に祖国へ戻ってきた隣家の男の子、エドゥアルトも彼女に付いていくように国軍へと入隊した。  これはエドゥアルトが彼女へ密かに恋心を抱いており、彼女と離れたくはなかったためである。  ただ、その件をジークルーン本人は全く知らなかった。  ジークルーンの場合とは異なり、両親からは反対されたエドゥアルトであったが「嫌になったらすぐに軍を除隊して帰ってくるよ」との条件を両親へ申し出て、事なきを得た。  戦争は膠着状態(こうちゃくじょうたい)が続いていた。  クロイゼン国の東部にあるグレブスギノック地方とハイラントはスロトスイ河をはさんで隣接しているゆえ、小競り合いは幾度となく繰り返されていた。  ジークルーンは戦場に立ち、戦闘に剣士として参加。  生まれて初めて人を殺害する。  強力な技を会得していた彼女にかなう者はなく、彼女の獅子奮迅(ししふんじん)の働きにより、国軍は最終防衛線をなんとか死守できたのだった。  とても新兵とは思えぬ、並外れた活躍が評価された彼女は、国軍の勲章である「第二級国鳥章」「第一級国鳥章」「戦功章」とさらに「東部防衛盾章」が贈られた。  エドゥアルトは彼女と同部隊にいたが、これといって何らかの活躍ができたわけではなかった。
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