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プロローグ(2)
「…………!!??」
『…………恐れなくてもいい。人の子よ、人の女よ。……突然のことで驚かせてしまってすまない。混乱しているのはよくわかる。恐れているのはよくわかる。あなたはその振動を発している。……我々の好む振動だが、あなたを困らせる気は毛頭ない。我々にはそんな必要がない。……人の子よ、我々には好物がある。我々の好物はなにかから発せられる振動だ。我々には好む振動がある。我々は低い振動を好む。高い振動を我々は好まない。……振動、いいや、波動といっておこうか。我々が好むのは重い波動。我々は軽い波動を好まない』
『……我々は、最初からなにかを創り出すことはできない。ただし、我々はなにかを改変するのが得意だ。元々あるものを反転させたり、それが表す意味を逆転させたりするのが得意だ。あったものを乗っ取って、それに入り込んで、正反対の教えや決まり事で相手を支配するのが得意だ。見た目だけで判断する愚鈍で単純なものを騙すのが、我々は得意なのだ。我々はなにかを創り出せない。我々はなにかをそのままで使用するか、なにかへ変更を加えることしかできない』
『……我々はあなたへお願いがある。我々を助けてほしい。あなたの波動を我々は感知した。感知したあなたの願望を我々はそのまま使いたい。人の子が抱く思いも波動に他ならない。我々では、あなたが一生を通じてつくった深い深い憂いと憎しみと痛みと苦しみと孤独さと冷たさを創り上げられない。……あなたのつくった波動は我々にとって、とても好みなものなのだ。それを我々は吸収したい。あなたは素晴らしい。あなたのつくった波動、それはたいへんな価値を放っている』
『……そこで、我々はあなたに頼みたい。あなたのつくった波動を使わせてはくれないだろうか。……安心してほしい。……あなたが肉体と考えているものは滅びることだろう。あなたの願いはこれでひとつ叶う。あなたの苦悩はそれでひとつ減る。だが、あなたのつくった波動はこれから永遠とこの星を覆い尽くすことだろう。それによって、あなたは報われ、そして救われることだろう。あなたを悩ませ続けたすべてにあなたは復讐できる。あなたはあなたのつくった波動であなたを苦しめ続けたすべてに報復できる。あなたの波動を用いて、我々はあなたがやりたかったことをやろう。あなたの心のかたちをこの星へと反影させて、お互いを憎ませ、争わせ、殺し合わせよう。どんなときも恐怖で縛りつけよう。幸福は外から与えられるだけなのだと信じ込ませよう』
『……あなたを救済するために我々はあなたを感知した。創造力のない我々を助けてほしい。あなたにしかできないことだ。…………どうだろう、人の女よ。無理強いはしない。我々はあなたを悩ませ、苦しめ、痛めつけてきた人の子とは違う。我々はあなたがわかる。わかるからこそ、頼んでいる。あなたにしかできないことを、我々はあなたへ頼んでいる。我々を助けてほしい。…………どうであろうか?』
「…………」
『…………』
「…………」
『…………』
「……ふっ……ふ、ふふふ、ふふふふ……丁寧に、ありがとう。……いいわ、いい、わよ。最期の最期になって……私にも理解者が現れてくれたってことよね。……あんたたちは何者なの? ううん……そんなことはどうだっていい」
「…………うん。……お願い。……すべてを私の願いで覆ってやって。……私を……こんな私にした、人間の進む先へ私は呪いを置く。私の願いで、すべてを、世界を、覆ってやってちょうだい」
「……頼んだわよ……。誰もが、思い知るといい……私の痛みを、苦しみを……!!!」
「……呪われろ……呪われろ……人間なんて…………永久に…………!!!」
『…………ありがとう。人の子よ、人の女よ。……あなたを見つけられて、我々は本当に嬉しい。とても、とても、感謝している。……あなたに後悔はさせない。我々は人の子とは異なって、あなたを裏切らない。あなたの願いを我々は着実に叶えよう。あなたの願望は我々の願望となる。…………これで、我々とあなたの間での契約は成立した。我々は契約を循守する。我々はあなたとの約束を履行する。我々はあなたを「はじまりの女」と呼ぼう。…………人の子よ、我々が見つけられるほどに、あなたは十分に存在したのだ……十分にあなたは創り上げたのだ……』
「…………ありがとう……なんて、やさしいのかしら……あんたたちは私をわかってくれなかった人間とは違う。私を傷つけた人間とは違う。……なら……頼んだ、わよ…………」
『…………こちらこそ、ありがとう……はじまりの女よ……では、早速はじめるとしよう…………』
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