大海原の懐で(1)

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大海原の懐で(1)

 おれ…………なんで、ここにいるんだ……!?  雷鳴とどろく漆黒の空が頭上に広がっている。  大粒の雨がぼとぼとと顔にぶつかってくる。  荒れ狂う波に身体が揺られる。  ザバーンザバーン、と強い波しぶきが全身へ降りかかる。  ……さっきまで乗っていた、おれの、父ちゃん、母ちゃんの、船が転覆している。  周囲には積荷が浮かんでいる。  積荷によっては浮かぶものもあるし、沈んでしまったものもある。  ……おれは浮かんでる木箱の一つに一人、取り付いていた。  波に揺られる木箱同士が、ごつんごつんとぶつかる。  おれを取り囲む湿った風は不気味な大笑いをしている。  …………あ、あぁ、父ちゃんと、母ちゃんは、どうなったんだ!?  船がひっくり返ったときの渦に飲み込まれてしまったのか!?  さっきまで、話してたのに!! 「……父ちゃーーーん、母ちゃーーーん!!」と声の限り叫んだけれど、風と波の音だけしか聞こえてはこない。  !!!!  はッ!!  ……ああ、ああああ、お、おれは、おれは……どうなるんだ!?  おれの気持ちなど知らない雷が鳴っては、雨が降りそそぐ。  星も月も暗い雲に覆われて見えやしない。  ……下は暗黒の海だ。  おれがしがみついてる箱の下はすぐ海なんだ……。 「ここで死んではならない、生きていたい、生きて(おか)に戻りたい」と、ただひたすらにそれだけを思う。  浮いている木箱に言い聞かせるみたいに。  雷光が辺りを照らした。  ……すると、おれはなにかの視線を感じた。  …………??  …………太い柱のようなものが見えた。  ああ、煙突か……。  ……ぇ、煙突!?  ……海に……柱?  は、柱、だって??  転覆した船を挟んで、なにかがじっとおれを見つめていた。  それはてらてらと濡れて光っていて、ふたつの目があった。  ふたつの目はキラキラと、小さな星が動くみたいに光っていた。  大きすぎる蛇が鎌首をもたげるような形でそれはこっちを見ている。  ……ピカッともう一度、雷光が辺りを覆ったとき、それの正体がわかった。  こ、こいつは……こいつは…………まさか、まさか…………。  それは、そいつは、船乗りなら、誰もが知っている海の怪物だった。
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