山の老人

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山の老人

 湖畔の緑が風で揺れた。  湖の前に老人が立っていると、大空から二匹の飛龍が羽ばたきながら降りてきた。 「…………ほほう、これはこれは」  一匹の龍の背から大地へ降りた女は老人へ気づいた。 「…………アッ」  足音を立てずに近寄ってきた老人は述べた。 「…………気を悪くせんでほしいのじゃが…………お前さん、ただの女性(にょしょう)ではないな。……その姿は仮のものであろう」 女「…………わかるんですカ?」 老人「ああ。……長きに渡り、深山幽谷(しんざんゆうこく)人外境(じんがいきょう)におると、いろいろとなぁ。……ワシはシナンという。……お前さんの名は?」 女「…………アガリア……といいまス」 シナン、と名乗った老人「…………フッ、ファファファ……。嘘は言っとらんのぅ。……本名じゃろう? その……一部といったところか。各地をまわって……何やら調べておるんじゃな。……お前さんに害意はないとみた」 アガリア、と名乗った女「…………そんなコトもわかるんですカ?」 シナン「うむ…………わかる、わかる……。自然とわかるものじゃよ……。……わしの住処(すみか)は向こうにある。…………気が向いたら、来てみよ。……では、な……」  くるりと背を向けて、湖から立ち去ってゆく老人の姿をアガリアは見つめた。 「…………ふーん…………ヘンなおじいちゃん…………だネ…………」  ……グルル、グルル〜ッ。  飛龍が喉を鳴らした。 「……いがいにいいひとだとおもうけれどなぁ〜って? ……。……ウフフフ……そうなのかモ……」  首を曲げる飛龍をなでながら、(くれない)の瞳のアガリアはメガネをかけた。
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