将来の夢

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将来の夢

 クロイゼンの東には貿易都市グルブネートがあった。  隣国との貿易が(いしずえ)となり、発展した町だった。  ここにヤンという名の男がいた。  ヤンは船方(ふなかた)であったが、彼の両親も船乗りであった。  そのヤンには娘がいた。  娘の名をジークルーンといった。  ジークルーンの父親は自らの両親と共に海運業を営んでいたが、あるとき大嵐に巻き込まれて父母を失い、船も壊されてしまう。  海に浮かんだ積荷にしがみついていたヤンは翌朝、運良く仲間の漁船に救助され、生きて(おか)へと帰ってきた。  両親と共に大切な船を失った彼は小さな船を借りて、事業を再開することにする。  しかし、彼の妻は出産中に死亡してしまい、ジークルーンの弟となる男児も死産であった。  ヤンは恋女房も赤子も一度に亡くしたため、仕事などとてもできないほどに落ち込んでしまった。  飲まず食わずで夜になっても眠らず、海を見つめているジークルーンの父親を見るに見かねた隣の家で暮らす夫婦は、失意の彼へ「海外貿易の話」を持ちかけた。  一念発起したヤンはその話に乗ることにし、ジークルーンを連れて隣の一家と海を渡り、隣国・アカルファンへと向かったのであった。  いくつかの町を転々とした後、ある町へ住居を定めたジークルーンたちは、そこで生活を始めた。  アカルファンには数年滞在し、その後にアカルファンから海を越えて、さらに別の国・リョクゼリアへとヤンとジークルーン、隣の一家の三人は渡った。  そして、この国でしか入手できない様々な品を見つけることができた。  リョクゼリアにいたとき、ジークルーンは「アガリア」という名の女性と知り合った。  このアガリアはドラゴンに乗って旅する者であり、優秀な龍使いでもあった。  ジークルーンはメガネ美人のアガリアや彼女の飛龍たちとすぐに友達になった。  撥弦楽器(はつげんがっき)を奏でる彼女を飛龍の背で見ていたジークルーンは「な……なんてかっこいいんだろう。こんなひとがこの世界にいるのか。……よし、わたしもアガリアさんみたいになろう」と思った。  アガリアの存在に影響を受けたジークルーンの将来の夢は「ドラゴンマスターになること」だった。 「……ア、そうそう。こっちの方に行くとサ、ヘンなおじいちゃんが住んでるのヨ。会いに行ってみル??」と、ある日アガリアに言われたジークルーンは彼女と共に森の奥へと進んでいった。  深い森を通り過ぎて高原を抜け、ジークルーンとアガリアを乗せた飛龍がたどり着いた場所には、天然の洞窟や巨木を利用した家のようなものがあった。 「おや……珍しい龍がやってきたかと思えば……お前さんだったか。んんー……アガよ……これはまた、おもしろい子を連れて来おったのぅ」  出てきた老人は笑った。 「……そーウ? ウフフフフ……」  アガリアがメガネをはずして微笑むと、(くれない)の瞳がひかった。
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