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アレクシアは急に胸が苦しくなった。
——このお方は、自分の命よりも部下を大事に思っていらっしゃるんだ。だから動くはずのない腕で、剣を握っていらっしゃるんだ⋯⋯。もしかすると、命を捨てるお覚悟なのかもしれない⋯⋯。
「生きなければいけません⋯⋯」
込み上げる思いを抑えることができなかった。
指先を騎士の肩の傷の上にそっと置き、心の中で祈った。
——天にまします我らが主よ。あなたのお言葉を信じる者に、どうか、あなたのお力をお与えください⋯⋯。
騎士の血がぴたりと止まった。傷がみるみる治っていく。
「そなた、もしやオメガ聖女か?」
騎士が驚きの声を上げた。
「え?」
アレクシアはハッとして我に返った。
聖女の身分を知られたら処刑されてしまう、そのことをすっかり忘れていた!
「ち、違います!」
慌ててブンブンと首を横に振り、大きな声で答えた。
「僕は、ただの通りすがりの、⋯⋯あ、悪役令息です!」
*****
オメガ聖女⋯⋯。
それは病や怪我をたちどころに治す、『白百合の奇跡』を起こす者たち⋯⋯。
一ヶ月前——。
たくさんの白百合の花が、秋の優しい風に揺れ動く。
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