3/9
前へ
/99ページ
次へ
 アレクシアは急に胸が苦しくなった。  ——このお方は、自分の命よりも部下を大事に思っていらっしゃるんだ。だから動くはずのない腕で、剣を握っていらっしゃるんだ⋯⋯。もしかすると、命を捨てるお覚悟なのかもしれない⋯⋯。 「生きなければいけません⋯⋯」  込み上げる思いを抑えることができなかった。  指先を騎士の肩の傷の上にそっと置き、心の中で祈った。  ——天にまします我らが主よ。あなたのお言葉を信じる者に、どうか、あなたのお力をお与えください⋯⋯。  騎士の血がぴたりと止まった。傷がみるみる治っていく。 「そなた、もしやオメガ聖女か?」  騎士が驚きの声を上げた。 「え?」  アレクシアはハッとして我に返った。  聖女の身分を知られたら処刑されてしまう、そのことをすっかり忘れていた! 「ち、違います!」  慌ててブンブンと首を横に振り、大きな声で答えた。 「僕は、ただの通りすがりの、⋯⋯あ、悪役令息です!」 *****  オメガ聖女⋯⋯。  それは病や怪我をたちどころに治す、『白百合の奇跡』を起こす者たち⋯⋯。  一ヶ月前——。  たくさんの白百合の花が、秋の優しい風に揺れ動く。
/99ページ

最初のコメントを投稿しよう!

220人が本棚に入れています
本棚に追加