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 ここはフェニキア王国のセント・リリィ修道院の中庭。  裾の長い純白の聖女服に幅広のオメガ襟をつけたオメガ聖女たちが、白いテーブルを囲んで午後のお茶の時間を楽しんでいた。  百合の花の甘く清楚な香りに包まれた、とても心地のよい午後だ。  が——。  いきなり甲高い怒りに満ちた声が響いた。 「ぬるい! 僕はぬるい紅茶が大嫌いなんだ! なんどもそう言っただろう!」  オメガ聖女のフロリックが顔を真っ赤にして怒った。燃えるような赤毛のオメガの青年で、白百合で作った花飾りを頭に飾っている。 「この、のろま!」  フロリックはティーカップをつかむと、思いっきり投げた。 「あっ!」  ティーカップは銀髪のオメガ聖女の頭に当たった。  ゴツッと鈍い音がし、聖女の銀色の髪がぐっしょりと濡れる。  水滴がぽとぽと流れて、純白の聖女服が茶色く染まっていった。 「おまえが悪いんだ、反省しろ!」 「もうしわけございません!」  深く頭を下げて謝った銀髪のオメガ聖女の名前は、アレクシア・パール。
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