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それは、体格の良い中年のベテラン三上先生が、確かミスチルを熱唱している時だった。
隣に座っていたグレーのワイシャツ姿の佐藤リーダーが、こんがり日焼け跡のついた左手腕時計のベルトを右手でキュッキュッと触りながら、私の耳元にふわっと話しかけてきたのだ。
「ウッチー。いやっ、内海主任。…あれはちょっと…。」
__運転していた佐藤リーダーは気づいていたようだ。
「サトリー?やだ!え?何のことですか?」
「ナカノッチとのことは、先生達みんな、うすうす気づいてはいるんだけどね…。」
「あと、首元のものも、隠した方が…」
「これはっ、彼氏のほうなんですっ!」
__墓穴を掘ってしまった。
誰との、ではなく。
まずは、これがキスマークではなく、一段階として、何かの〝傷〟などであると、否定すべきだったのに。
「ごめんなさい…。…ナカノッチに言ってください。」
認めたのが思ったより早過ぎたからか、佐藤リーダーは自分で言っておきながら、だいぶ目を丸くしていた。
もしかしたら、男同士の話で、もうナカノッチとサトリーはそういう話をしているのかもしれないと瞬時に思ってしまったのがいけなかった。
本当はもっと否定で粘れたはずなのに、その時の私は、早々に観念してしまったのだ。
「いや、大丈夫。ウッチーの身を守る為だから。先生によっては…会社とかに言われたら…やばいでしょ。」
紳士的な佐藤リーダーにそれを指摘されたのが、少し恥ずかしかった。
少しだけ、目が覚めた気もした。
そうだよ、私は根は真面目な人間なんだ。
「もしかして… きいてたりしますか?」
「何を…?」
「いや…うーん。言いにくいな。私との…色々…詳細…的な。」
「何にも。」
「よかった! …男性同士って、どこまで話すのかな、とかって気になったから。」
「何? …ものすごい性癖の持ち主なんですか?」
「(!!)なわけ… 普通…以下です。」
「あはは…!」
昭和な言い方をすれば、〝ダンディー〟な佐藤リーダーの、上品で、優しい笑顔。
筋肉質で、引き締まった、色黒の肌。
本当は、私は、佐藤リーダーの方がタイプだった。
って…!タイプも何も、
佐藤リーダーは既婚者で、ナカノッチはセフレだったんだけどさ。
一瞬、頭を過ぎってしまった。
(こんなに紳士的な男性も、誘えば堕ちるのかな…?)
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