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失踪事件
近頃、10代半ばの子どもの失踪事件が増えている。
中には、家庭環境や素行に問題があったり、対人関係や勉強の悩みを抱えていたケースもあるけれど、消えた子どもたちの共通項にはならなかった。例えば、15歳の男子高校生Mは、初めて出来た彼女とのデートを翌日に控えて舞い上がっていたという。また、16歳の女子高校生Aは、受験勉強を必死に頑張って第一志望校に合格し、春からの新生活に向け期待に胸を膨らませていた。更に、15歳の女子中学生Kは、親友と来ていたアイドルグループのコンサート会場で、限定グッズを買いに行ったまま忽然と姿を消した。彼らが失踪する理由など皆無だった。家族が捜索願を出したものの、事件・事故含めて手がかりは一切ない。
「聞いたか? 1年の野宮、いなくなったらしいぞ」
そんな噂が流れたのは、2学期が始まって間もない9月の第2週。
「野宮? サッカー部の?」
「そう、我が校のエースで、天才ストライカーの」
「なんでまた」
「U-18に選ばれるのは確実だって言われていたのになぁ」
「例の『異世界転生』じゃないかって、サッカー部の先輩が騒いでいたぞ」
「異世界かぁ……本当にそんなところ、あるのかなぁ……」
世界各地で子どもたちの失踪事件が相次いで、数年後。謎の光に包まれて、子どもの姿が消えた瞬間が確認された。それはコンビニ前に設置していた防犯カメラに偶然映り込んでいたのだけれど、以来、同じような映像が各地で得られるようになった。
やがて、この怪現象の発生理由は『異世界に召喚されたからだ』という噂が、ネット上のとあるサイトで広まり出した。証拠はない。確かめる術はない。けれども同時期に、『異世界転生』のコンテンツが巷に溢れ出したことも相まって、子どもたちの間では「もしかしたら?」という確信めいた想像が定着しつつある。真相は、誰にも分からない――。
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