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逆転勝ち
貧乏生活の一番我慢ならないことは、周りに舐められることだとブランセ・アルジュバイルは思っている。
故郷で革命が起きる前は貴族として生きていたブランセにとって、嘲られるのは勿論のこと、憐れみを受けることさえ不愉快だった。
兎に角隣人より上でなければならぬ。裏町で家賃を滞納して生きる身に落ちてもなお、ブランセはこんな強迫的な信念に縛られて生きていた。
「しかしこの町には金持ちが多いですなぁ」
そんなブランセの不機嫌を知って知らずか、酒場で偶々知り合った汚い身なりの老人は、ビールの泡を付けた口から唾を飛ばしながら語り出した。
この老人は、ブランセが一人で酒を飲んでいたところに無理やり絡んできたのだ。鬱陶しいったらありゃしないとブランセは舌打ちしたが、老人は気付いていないようだ。
「此処でする話ではないな。流行りの旅行誌にでも書いておけ」
「はは、旅行誌ですか。そういや私は元々本の内容を手で写して売り飛ばしていたのですが、活版印刷というのですか、それが田舎の貧乏人にも広まってしまい、あっという間に職を無くしてしまったんですよ」
生活の苦労と老いの悲惨さを映し出したかのように濁った黄色い瞳を伏せ、恨みがましく言う老人に、ブランセは何の同情もしなかった。
「しかし技術革命というのですか、それを応用して成り上がる人もいるんですなぁ。この町では、マーク・ウィールさんでしたっけ。そういうのを天才と呼ぶんでしょうなあ」
マーク・ウィール――この町で一番の商人の名前だ。ブランセは「帰る」と言って、すっくと立ち上がった。
貴族を斃して成り上がった商人というものが、ブランセは我慢ならない程大嫌いだったのだ。
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