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再会Ⅰ
芙蓉はその日、ホテルの従業員に緊張感があることに気づいた。何かあるのかといぶかしんだ。
いつものようにコンシェルジュボックスへ入ろうとすると、エントランスから歩いてくる男性に目を吸い寄せられた。
「噓でしょ……」
芙蓉は急いで身体を反転させると、入口から死角となる場所へ身を滑らせ、息を殺した。
歩いてくる男性はふたり。
ひとりは背の高い一重の目で鼻筋の通った若い男性。芙蓉は彼を直接見るのは四年ぶりだった。あれから雑誌や取材の記事で彼の写真は見たが、本物はずっと男ぶりが上がっていた。
それもそのはずだ。あのころとは違い、彼の父が総帥を務めるツインスターホテルグループは現在、日本国内でトップを狙う勢いだ。
手荷物は何も持たず、堂々と歩いてきてチェックインするとあの悩殺スマイルを落とした。フロントの女性従業員は真っ赤になっている。
彼はそのままカフェへ消えた。後ろから彼の付き人兼秘書である佐々木がついていく。
芙蓉は急いでフロントクラークで仲のいい同僚に小さい声で確認した。
「今日、あちらのVIPが来ることを聞いていました?」
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