育雛と帰り

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 その胸が、ふくらむにつれ、……紅のすがたがどんどん、成長していく。  背から、黒い翼が顔を見せる。  瞳が、暗い怒りに燃える。  艶のある、濡れた烏のような髪が伸び、ふわり、と、どこからともなく吹く風に舞い踊る。 「さあ」  おびえたように一歩後退する葦枇との距離を、容赦なく詰める。 「俺の兄ちゃんを、返してもらおうか」  手をかざす。  つむじ風が、びょうびょうとその掌で渦を巻いた。 「ば、ばけもの……」  ふるえる声で、葦枇が紅を罵倒する。 「やめろッ!」  叫んだところで、目が覚めた。        ◆  ぼやける視界。  額に手を当てると、普段よりもはるかに、熱かった。  風邪を引いたのか、とつぶやく。  やけに、身体が重い。  なにかが、乗っているような……。 「って、うわっ!?」  まさにその通りだった。  紅が、早夜の顔を覗き込むようにして、彼の上に覆いかぶさっていたのだ。 「な……なにしてんだ、紅」 「ふるえてたから」  きょとんとした顔で、当たり前のように告げる。 「あっためようと思って」 「へ、変な真似よせよ!」 「ヘン……?」  小首をかしげる。 「俺、人間よりも、体温が高いから。上に乗っかれば、湯たんぽがわりになるかなって」 「おまえな……」  純粋な目。  なにかしてやろうという感じでは、ないように見えた。  上半身を起こす。  拍子抜けしたような感覚。 「他の奴にやったら、セクハラで訴えられるからな。絶対にやるんじゃねえぞ」 「なぜ?」  無表情のまま、淡々と説明を求める。 (こいつ、マジか?)  頭が痛くなる。  しかし、彼は予想に反し、にこり、と微笑んだ。 「なんで、他の子にも、俺がこれをやるって思ったの?」  俺がそばにいようって思うのは、早夜兄だけだよ。  羽が、早夜の身体をやさしくくるむ。 「……あったかい」 「寒いときは、いつでも俺を呼んでよ」  腕がまた、羽に遅れて、背に回る。 「いまは、葦枇と暮らしていたいんだろう。……ねえ、ごめんね。勝手に入ってきちゃって。怒られるのはきっと、早夜兄なのに」  鼻を、すん、と鳴らす。 「あいつの匂いがする。もう、行かなくちゃ」  嗅覚がするどいらしい、と思って、いや、おれの鼻が詰まってるのか、と、無意識にこぼす。  それを聴いて、すこし笑う。 「今度は、風邪に効くものでも持ってこようって考えてたけど、もう、遅いみたいだね」  言い終わった瞬間、部屋のドアがバンッ、と開く。 「……おい。早夜」  足音も荒く、葦枇が室内に踏み込んできた。  吊り上がる眉。 「何、やってんだ? お前」
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