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紅が、無言で、早夜の上からどく。
その身体をすり抜けるように避けて、葦枇が、早夜の前に立った。
「堂々と、オレの家でアバンチュールとはなァ。舐められたもんだ」
額には青筋が浮かんでいる。
「ひッ!?」
胸元に手を入れられ、早夜がおびえた声をあげた。
「あしび! 何を……」
「ボディチェックだ。何もされてねえか」
唇の端から、ちらりと赤い舌がのぞく。
くく、と笑う。
「また太ったか? しばらく見てやってねえうちに、肉感が増してるぞ」
「セクハラだ」
「は?」
「馬鹿!」
紅が脊髄反射的に発した言葉に、あしびが眉をひそめる。
早夜が、大声で紅を制止し、口を両手でふさいだ。
「なに馬鹿なこと言ってんだ! 撤回しろ、ほら早く!」
「もがごごご」
早夜の手をそっと握って横にのけ、紅が表情を変えずに言った。
「セクハラする男はきらわれるんだよ。ヘンタイだから」
「紅……」
困惑する早夜。
「何いってんだ? このガキ」
葦枇が、付き合いきれねえ、と失笑する。
「いいか? オレたちは、正真正銘の恋人同士なんだよ。テメェがいま見てたよりも、もっと過激なコトだって、日常茶飯事なんだよなあ」
腰のあたりを、するり、と撫でる。
早夜が身を震わせた。
その目が潤んでいる。
「なんなら今からここで、このオコチャマに見せつけてやっか? な、早夜?」
「お、おれは、……」
抱き寄せられ、続く言葉がしぼんで消える。
「構わねえよな?」
「……」
沈黙を、同意と取ったらしい。
布団に、早夜の細い身体が横たえられる。
「鼻血出さねぇようにな、オコチャマ」
嘲笑とともに、体重がかけられる。
そばに立っていた紅のすがたが、視界いっぱいに広がった葦枇の顔で見えなくなる。
目をつむる。
一瞬だけ、かかっていた荷重が消えた。
(あ)
どさっ、という音。
うめき声。
こわばった身体を、ゆっくりと抱き起こされる。
「早夜兄」
あたたかい腕が、すぐに離れる。
「何すんだ、テメェ!」
怒鳴る葦枇の声が、ふるえている。
怒りからか、それとも、……恐怖からか、早夜には判断がつかなかった。
地べたにころがる葦枇を威嚇するように、黒ぐろと艶めく羽が、部屋いっぱいにばさり、と広げられる。
「それはこっちのせりふだよ。何、嫌がってるのに無理矢理、早夜兄にヘンなことをしようとしてるの?」
低い声が、鼓膜を打つ。
まるで特有の振動音のように、危機を知らせるように、びりびりと脳に響く。
「だめでしょう。恋人同士でも、嫌がることをしたら」
葦枇が立ち上がる。
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