219人が本棚に入れています
本棚に追加
過保護で、なんでかわからないけど鷹哉に夢中な善が。聞いてしまったらもう戻れない気がして、結局理由も聞けなかった。
やりたいことに全力で付き合ってくれるところとか、繋がれる手のあたたかさも好きだった。だけど、自分でそれを強く振り払ったのだ。
悲しくて、何よりも自分自身の不甲斐なさが腹立たしくて、熱い感情が目元にせり上がってくる。シャワーの水と一緒に、排水溝へと流れていく。
失ったものの大きさを知って、鷹哉はもう一度身体を震わせた。
食欲がなく身体はだるいしで、家に帰ってからもずっと寝ていた。風邪を引いたのかもと考えたけど、自分のことなんてどうでも良くて何をする気にもなれない。
いつの間にかバイトの時間になっていて、慌てて重い身体を引きずってバーへ向かうも、顔を見た瞬間マスターに追い返された。
早くからカウンターに居座っていた常連のジュンもぎょっとした顔で二度見してくる。
「うわっ。ゾンビかと思った!」
「たぁくん大丈夫!? 病気!?」
「いや……生きてるし……」
「いやいや、声からして覇気ないし。白いを通り越して青いから! あと透けてる!」
「透けてないし……」
「はいはい、体調不良者は帰ってなー!」
「え……おじちゃん家まで送ろうか?」
大きな声にガンガンと頭が痛む。言われてみれば確かに、自分でもこんな人に接客されたくはないと気づいた。
渡されたマスクを素直に受け取って、ふらふらと二人に背を向ける。
「彼氏はどうしてるんだ? こんなたぁくん、放っておく人じゃないっしょ」
「あいつとは終わった」
「「え……?」」
「じゃ、おつです」
「え……ほんとに?」
「まじかー……」
まだ背後で喋ってるのが聞こえたけど、そのまま店を出る。重いため息をつくと、ケホッと咳が出た。
最初のコメントを投稿しよう!