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内容は、ドアノブに差し入れを掛けたから回収してくれというものだった。家を教えた記憶はない。しかしよく考えてみれば、バイト先に履歴書を出しているから住所はわかるか。
まだバーの営業時間内だから、誰か別のスタッフが届けてくれたのかもしれない。
ゆっくりとドアを開け外を確認するも、アパートの廊下には誰もいない。冷たい夜の空気が火照った身体を撫でる。新鮮な空気に、ちょっとだけ頭がスッキリした。
大きくて重い袋の中身はミネラルウォーターとゼリー飲料、レトルトのお粥に市販の解熱鎮痛剤と風邪薬だった。普通にめっちゃ助かる。
着替えてから水分と栄養を摂り、薬を飲んで横になる。たったそれだけで、身体がだいぶ楽になった気がした。脱水症状もあったに違いない。
明日の授業は代返してもらえるよう友人にメッセージを送ってから、トーク欄の下の方まで移動してしまった善とのやりとりをぼうっと見つめる。
いつも鷹哉を気遣うあたたかなメッセージばかりだった。冴えない男に危険なんて何もないのに、バイトの行き帰りを心配して。自分のほうが忙しいくせに、時間を捻出して会いにきてくれる。
自分に愛される価値があるのだと感じてしまうような、幸せな二ヶ月間だった。
(忘れよう。おれにはもったいない恋人だった)
自覚したときには失恋していた情けない恋心は、おれだけが心の奥に持っていればいい。この熱が下がるころには、今よりもう少し、平気になっているだろう。
そうだ、ワンナイトも再開すればもっと早く忘れられるはず。一夜のために駆け引きを楽しんで、深入りさせずにさよならして。結局それが一番いい。
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