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 ふたりでタクシーに乗った。明日も平日だけど……今はまだ離れたくない。そんな思いを込めて、善の手を自分からぎゅっと握る。 「うち……来る? 狭いけど」  車内は暗くたまに対向車のライトに照らされる程度で、善の表情は読めない。  持ち合わせがないし、これ以上お金を使わせたくなくて家に誘うと、善は運転手にうちの住所を告げた。なんで家、知ってるんだ?  隣を見て首を傾げていれば、善はびくっとシートの上で跳ねて狼狽える。……怪しい。   「ちっ、違うんだ! その、たかやくんが体調崩したとき、マスターに頼まれて……」 「あ、あの差し入れ善だったのか?」 「う。うん……」  気分的にも死にかけていたときの差し入れには、本当に助けられた。そもそも原因の半分は当の善だけどな。  つーか、連絡先を知らないはずのマスターに善が頼まれたってことは…… 「今日もだけどさ、あの日もバーに来てたってこと?」 「ゔ」 「それって、ストー……」 「あああ! 待って! たかやくんが恐怖を抱いたり、拒否しなければ、あの、法には触れないから……」 「くっ。あはは!」  さっきはかっこよく法令を並べていたくせに、鷹哉のことになるとしどろもどろだ。そんなところがこの男はかわいい。  完全に見放されたと思っていたときに、実は気にかけていてくれたと知った。単純だが、鷹哉の心はふわふわと浮かれてしまう。  話したいことや聞きたいことはいっぱいあったけど、運転手がいるので互いに言葉少なになる。でもしっかりと握り返してくれた手から伝わる熱で、鷹哉の心は満たされていた。
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