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家のドアが閉まる前に、狭い玄関で善に抱きついた。さっきの続きだと思っているのか、善は鷹哉の背中をポンポンと優しく叩く。
しかし鷹哉が求めているのはもっと濃厚な触れ合いだ。心の一部が、まだ現実を信じられないと不安を訴えているから。
「善、好きだから、抱いて……」
連絡が途絶えて以降、ずっと寂しかった。なかなか新しい出会いに乗り気になれなかったのも、やっぱり善のことを忘れられなかったのが理由だろう。
背中を叩いていた手が止まり、くっついていた腰をさらに引き寄せられる。後頭部を押さえられると自然と顎が上がった。
「たかやくん……」
「んっ、……んぅっ」
ゆっくりと唇を愛撫され、舌がぬるりと侵入してくる。応えるように舌を絡めると、吸われて離れない。
ジンと舌の付け根が痺れてくぐもった声が漏れ、うっとりとしている間に上顎をくすぐられた。快感に腰が震える。
ワンナイトの性急なキスばかりだったから、しっとりと濃厚なキスは慣れない。ときおり鳴るリップ音と水音が鼓膜を震わせ、脳内まで犯す。
甘い口づけを堪能していると、突然ガクッと鷹哉の膝から力が抜けて座り込んでしまう。自分でも理由がわからず驚いた。立ちあがろうとするも、膝にうまく力が入らない。
「かわいい。腰、抜けちゃったの?」
「え。これ、そーなのか……?」
おばけに膝カックンでもされたのかと思った。初めてこんな風になったと素直に伝えると、善はとろけそうな笑顔で鷹哉の頭を撫で、靴を脱がせて部屋の中まで運んでくれた。
寝室が分かれてもいない、ただの一部屋だ。迷わず廊下の正面のドアを開き、壊れやすい宝物のようにベッドに下ろされる。
「前から思ってたけど、そんな大事にしなくても……」
ワンナイトだと思って誘った夜のことは今でも鮮明に覚えている。前戯だけで散々泣かされ、懇願するまで挿入してもらえなかった。
だからこれは、遠慮というより苦情だ。
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