恋愛レッスン1

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恋愛レッスン1

「森の奥で魔物に食われかけていた」  若い男の声が遠くでした。  誰かに説明をしているようだった。  続く甲高い声。 「もうすぐ死にそうなのに、どうして、拾ってきちゃったのさ?」  少しの間。 「助けてと言われたからだ」 「アズ。屍姦はいくらなんでも駄目だって」  屍姦って、嘘でしょ?!  私、間もなく死ぬの? 「誰がそんなことをするか。そもそもどこで覚えたそんな言葉?」  呆れたような若い男の声。さっき、子供にアズと呼ばれていた。  子供は「エッヘヘ」と笑っている。 「安心しろ。いよいよ駄目そうになったら、捨ててくる」  自分が浅く覚醒しているのは、なんとなく分かる。  夢。  これはただの悪い夢。  目覚めれば、狭いワンルームに寝ていて、部屋の片付けをしたり、課題をこなしたりと現実は始まるはず。  瞼が開かない。  身体全体が痙攣しているのが分かる。  ようやく薄目になると、金髪の子供が去っていく後ろ姿が視界に入った。  それを、見送る青年の横顔も。 628e860a-3981-443a-82ef-736fd6e4797e  ほりが深く、髪は青みがかった黒でゆるいくせ毛だ。  金の縁取りがされたローブ姿で体格がいい。 二十四、五歳ぐらいに見える。  この人、多分、日本人じゃない。  寝かされていたベットは家にあるものとは質感が違う。  ブランケットの肌触りも。  部屋も、外国の農家の納屋みたいな粗末な作りで、家具は、他には机と椅子。暖炉ぐらいしか無い。  部屋の隅には幾つか蝋燭が灯っている。  もしかして、私、どこかで気絶して、ここに連れ込まれた? 「……あ、のっ」  アズという名の青年が、こちらを見つめてくる。  目の色は群青。  鼻筋は撫でてみたくなるような美しさで、うっすらと赤みのある横に大きめの唇。    トップアイドル?いや、もうこれは、活躍を約束された俳優。  とにかく常人では無い整いぶりなのだ。
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