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「そうだったの。大変だったわね」
「うん。結婚も破談になっちゃったけど、パン屋は守れたから僕、元気」
「結婚?!だってまだ、ええっと幾つ?」
「八歳。去年もその前も八歳だった気がするけど今年も八歳」
エレンは独特の答え方。
「とにかく今、八歳なのよね?大昔の貴族だったらまだしも、現代でその年で結婚が決まっているなんてあり得ないわ」
「リコの国では違うのか?」
さらっと呼び捨てにして、黒魔導師と名乗った子供が聞いてくる。
この国の男は、子供であっても、女慣れしているようだ。
人種の違いなのか世界の違いなのか。
「ねえ。黒魔導師君。君は幾つ?」
聞くと苦虫を噛み潰した顔で、
「エレンと同じだ」
「……なんて貫禄のある八歳。ねえ。私が育ったところでは職業名で呼ぶ習慣がないの。だから、呼び名を決めましょう。そうね、どんなのがいいかな。ウィーはどう?ウイザードのウィー」
「いいね!」
とエレンが手を叩き、当の少年は、
「適当な呼び名を付けやがって」
「気に入らない?」
「どっちでも。さっきの話の続きだ。ルーセン国とその一帯では、生まれた直後から結婚相手が決まっている」
「この世界では、恋愛という概念は無いの?」
驚きの余り、抱えていたバスケットの中のパンがはずんだ。
恋愛という苦行から完全解放されるなんて、ますますリコにとって都合の良い世界だ。
香りが鼻先をかすめていき、ぐうっとお腹が鳴った。
「少し早いが飯にしよう」
黒魔導師からウィーと呼ばれることになった少年が暖炉に手を翳すと、そこに赤々とした炎が。
「うわっ」
魔法にはまだ慣れない。
暖炉の前にテーブルが置かれ、そこで食事を囲む。
並んだのは野菜スープ。スライスしたチーズ。羊の肉。数種類のきのことチーズがたっぷり乗った平たいパン。それを暖炉で焼きながら熱々で食べるらしい。
二人がお祈りのような言葉を唱え始めたので、その終わりを待つ。
三人揃っていただきます。
「アズは待たないの?」
エレンが答えた。
「あいつは、魔物を狩るのが仕事だから、夜から忙しくなるんだ」
「魔物狩り?黒魔導師なのに?」
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