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「リコちゃん。一体どこの国から来たの?ルーセンでは黒魔導師は存在してない職業なんだよ。だってルーセンは白魔術の国の国だから。こっそり呪いのお願いをしても謝礼金が高すぎて頻繁に頼める人がいないから、メインは魔物狩りだよ。皮を剥いで、売れる部分は売る。あとは、キノコ採りかなあ。このきこりのパンに乗っているきのこだってアズが採ってきたんだ」
「余計なことをペラペラ喋るな」
とウィーが諌める。
「いいじゃないか、知っといたって。リコちゃん、ここに住むんだろう?」
「しばらくはな」
リコの隣に座るエレンが「うわ、嬉しい!ねえ。リコちゃん」と距離を詰めてくる。
「やめろって」
とウィーがリコの前に身を乗り出して阻もうとするが、エレンはウィーを無視してとうとうと喋る。
「ずっとこの家にいて?毎日、パンの差し入れするよ?僕んち、パン屋だから美味しいパンが食べ放題」
「このお家、お店屋さんだったの?」
すると、エレンが階下を指差す。
「そ!一階がね」
「まさか、エレンとウィーだけでお店を?」
「ううん。パン作りはアズが。魔物狩りから帰ったその足で、パンを捏ねてくれるんだ。子供の力じゃ無理だから」
「あの人、働き者ねえ」
ルーセン国に社交界というものがあるかどうかは知らないが、あの見てくれならそういう場所で女の人を数人、はべらせている方が似合う気がする。
「ねえ、リコちゃんてば。さっきの話の続き!僕と一緒にいてよ」
「うーん。ありがたい申し出だけど、それはどうだろう?私、まだルーセンのことも、エレンのこともよく知らないし」
すると、八歳の子供がにんまりした。
「僕、いいこと考えた!」
ウィーは肉を切りながらげんなり顔。
「そう前置きするときは、大体くだらない」
「そんなことない、聞いて!聞いて!ウィーは最近は僕に、魂の恋人探しをそろそろ始めろって言うだろう?」
「頃合いだからな。それにしても、お前が自分からこの話題を出すなんて珍しい。いつものらりくらり交わすくせに」
肉に乾燥させたハーブを振りかけながら、天真爛漫というものが抜け落ちた八歳の黒魔導師が、首を傾げているリコに補足してくれた。
「魂の恋人というのは、ルーセン国、というか、この地方一帯の風習だ。結婚相手は生まれた直後に親や親族によって決められ、だいたい十四、五で結婚。数年内に親になる。それは人として生まれた義務であり仕事であるから多くの場合、他人に毛が生えた程度で愛情は生まれない。だから、公認の恋人を持つことが認められている」
「公認の恋人ぉっ?!」
「そんなに驚くことか?」
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