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「昔からある商売は権利証が無ければ出来ない。エレンの両親が商売を始めた頃は、権利金はそこまででもなかったが、今や庶民では手が届かない」
「そうだったの」
パン屋はこいつの財産だから、金銭関係が絡んでくる結婚相手は慎重に選んでやらないと。そして、魂の恋人は心の拠り所だ。多くの相手と出会ってみないと、その感覚は育たない」
「頭にいれておくわ。この国では、魂の恋人は自由恋愛で、結婚は契約」
エレンが真剣な顔をして、ウィーとリコの顔を交互に見た。
「話を続けていい?いい考えっていうのはね、リコちゃんを僕の魂の恋人にしたらいいじゃないってこと」
口に肉を運びかけていたウィーが、それをぽろりと落とした。
「待て。どう考えたらそういう結論になる?」
「魂の恋人に年齢は関係ないんだろ?」
「それは建前だ。二十は年が離れているんだぞ」
リコはびっくり仰天した。
「ちょっと待ってよ!エレンは八歳でしょう?じゃあ、私、三十歳近いってこと?」
エレンが棚から手鏡を持ってくる。
割れていて随分古い。
母親が大事に使っていたものだという。
覗き込むとそこには、白銀の髪に赤い目をした女が映っていた。
とても妖艶だ。
「これ、私ぃっ?!」
「アハハ。リコちゃん。鏡を見たことがないの?」
とエレンが爆笑し、ウィーが
「きっとド田舎から来たんだろ」
とつられて笑ったのち、「どういうことだ?」と耳打ちしてくる。
「顔が違うの。それに私、まだ十代なんだってば」
「呪いをかけられて、顔や年齢まで変ったなんて話、聞いたことがないぞ。こっちの世界に召喚されて、それ仕様の姿になったってことか?」
「呪いのこと、アズに聞いたの?」
ウィーの顔がぴくりと痙攣する。
「そうだ」
「仲が良いのね。エレンとアズが親族なら、貴方はどういう関係?」
「同じ魔術を学ぶ者。顔と年齢のことはあいつが帰ってきたら伝えておく」
リコとウィーだけ仲良くしていると思ったのか、エレンが絶叫。
「ねえっ、リコちゃん!リコちゃんってば!!」
「うん?はい?」
「僕の魂の恋人になってって、言ったんだから返事して!」
「返事?」
リコは助けを求めてウィーの顔を見る。
「ウィーを見ないで!僕を見て!」
なんとも熱烈な口説きだ。
正直、今まで出会ったどの男よりも情熱的で純粋。
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