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「それは嫌な思いをしたな。抜きん出たよい見目をしているというのに」
え?何を言っているのこの人。
私に飛び抜けた美貌なんてない。
ミスコン三位レベルの顔だ。
これは、中、高、大で実績あり。
男から見れば声のかけやすい狙い目の女。
悲しいが冷静な分析結果だ。
アズが床に落とした黒い金平糖を拾った。それを水晶玉を撫でるように触り始める。
「お前には面白くも厄介な呪いがかかっているようだ。これだけじゃ詳しく解読できないが、自分で自分を呪った上に、さらに誰かが新しい呪いをかけて上書きをしている」
「私、死んだんじゃないの?」
「呪い以外はピンピンしている」
「私、ルーセンなんて知らない。私が住んでいた世界にはそんな国名無かった。どうなるの、私?」
アズが胸に手を伸ばしてきた。黒い渦はもう先程ぐらいの大きさになっている。
「この黒いのは、取り払わなければ身体が動かなくなる。やがて呪いに取り殺される。だが、速度が早すぎる」
「た、助けて」
「今の時点で完全に取り去ることは出来ないが、速度を落とすことなら出来る。やってみたことがないから、多分と付け加えざるを得ないが」
「それをどうか」
アズが眉根を寄せる。
「俺は構わんが」
「え?そんなに私の身体にきついことなの?」
「うむ。こっちにな」
黒い渦を一つ取り去った後、アズが胸の真ん中を軽く突いてきた。
「心ってこと?何?」
「お前、俺に口づけられても泣かんか?」
「どういう意味?」
「お前の身体の中で、誰かがかけた呪いにより呪詛が絶えず生成されている状態だ。今、生成されている分を一気に引き抜く」
「それを口づけで?」
「そうだ」
からかわれているのだろうか?
「本気だ」
「……私、何も」
「顔に出ている。ま、俺のような者と唇を合わすのは嫌でたまらないだろうがな」
イケメンにはそぐわない申し訳無さそうな表情だった。
演技ではなさそうだ。
「違っ。だって、さっき、貴方のことを知ったばかりで」
「早めに決めろ。こうやって皮膚まで浮かび上がらせて取り去るのも、魔力を消費する。ここら辺に黒魔導師は住んでいないし、いたとしても法外な額を請求される」
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