恋愛レッスン1

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 彼に倒れられては、元も子もない。  選択肢は無さそうだ。 「お願い、しますっ」  アズがベットサイドに越しかけた。  両耳を温かい手にで押さえられた。  至近距離で目が合う。 「これは性的な行為じゃない。意識するな。義務的にしてやる。名は?」 「莉子」 「そうか。リコか」  ―――可哀想に。 という呟きとともに、唇が重ねられた。 993ed49a-994d-483a-b4f5-799cc358d040  一瞬触れる程度。  挨拶みたいな。  何度かそれが繰り返された。 「すぐ済む」 と言う早口の声が息の塊となって頬のあたりにぶつかってくる。  唇がずらされた。  それは舌を入れてくる合図だと分かっている。  何人かと付き合って、キスはたくさんしたけれどずっと好きになれない行為だった。  時間と金を注ぎ込んでようやく手に入れた。これは自分のものだとばかりに無遠慮に差し込まれる舌。  薄目を開ければ、猛禽類みたいな目で眺めている表情。  でも、異世界の男のキスはそれと全然違った。  遠慮がちに口腔に入ってきて、逃げようとする舌に触れていく。  元々熱かった手はもっと熱を帯び、今度は首や頭をさすり始める。  本当にお前が大切だ。  言葉はなくとも、手だけでそう伝わってくるような。  そんなことをされたら、ただの救護と分かっていても、身体が甘く痺れてしまう。 「リコ」 「んっ。ん……」  誰の声? と思ったら自分の。  口の端からは勝手に唾液がこぼれていく。  目の前の男のも混ざりあった粘度の高い熱い液だ。 「リコ」 「名前、駄目っ」 「ん?」 「耳、くすぐらないでっ」  相手は無意識らしい。  舌はもっと口の奥まで侵入してた。 「ん、ふっっっ!」  さすがに苦しくてあえぐ。  おかしい。
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