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ありがた迷惑な行為だったが、受け取っておいた方がよさそうだ。
つま先を差し入れると、
「おおうっ」
とアズが身体をビクつかせた。
「ご、ごめんなさい」
足を引く前に、ぴったりと挟まれてしまった。
「森の中に素っ裸でいたんだもんなあ。そりゃ冷えるか」
アズの股の間は、本当に暖かった。
心細さしか無い今、安心して涙がでそうなぐらい。
そのぬくもりが、リコには普段、絶対に言わせないことを口走せらせた。
「私にできるお礼、無い?」
あ、しまったと思ったが、もう遅かった。
アズが、肘をつっかえ棒にして上半身だけ起こし、身体を捻ってリコを見る。
―――じゃあ、身体で払ってもらおうかな。
今まで、マッチングアプリで出会った男なら、全員そう言う。
彼らがかけた時間、お金、親切、お世辞は、気持ちがいいことと等価交換だからだ。
リコは目をそらしかけた。
それを引き止めたいみたいにアズは、
「なら、ずっといてくれるか?」
深みのある声だった。
まるで愛を伝えるかのような真剣さ。
「ずっと」に混乱する。
それは居候として?
それとも別の意味?
アズの手が伸びてきて、リコの頭を大きな手でいなすように軽く押した。
「冗談だ。お前は元の世界に帰りたいんだものな」
落ち込みと自嘲を混ぜたようなトーンと共に、自分が使っていた枕をリコに全部押し付けてきて、
「寝ろ」
また背中を向けてしまう。
少しして規則正しい寝息が聞こえてきた。
リコは隣にある大きな背中を見ながら拍子抜け。
今夜は何も起こらないらしい。
あれほどのキスをしておいて。
といっても、アズには救命みたいな行為だったのかもしれないが。
でも、途中、興奮してたわよね。
だって、下半身が……。
(期待しているみたい)
リコは、アズに背中を向けるように寝返りを打った。
相手がどんなイケメンでも、もう恋愛はこりごり。
いや、イケメンであればあるほどだ。
彼らは平気で本命外の二番手、三番手の彼女を作る。
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