そのブームは誰かが儲けるための戦略だ

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そのブームは誰かが儲けるための戦略だ

  このクラスは異常だ。あいつが担任になってからだ。  あいつは28歳で、常に格好はジャージ姿、日焼けサロンに通っているのですか?と問いたくなるほど、カラスのように黒い肌。はち切れんばかりのパワーをとても感じさせるほどゴツい体格。学生の頃はサッカー部だったらしいけど、ラグビー部でしたと、言われた方が違和感はない。  あいつが初めてクラスにやってきたときは、たくましく、みんなから好かれそうな先生だなと思った。今も、その評価はあながち間違ってはいない。むしろ私以外はあいつに好印象を抱いている。  最初の挨拶はインパクトがありすぎてクラスのみんなは引いていたけど。 「みんな、この時代は勉強を通して、知能を成長させるのも、大事だけど、筋肉を育てるのも大事だよ。特に成長期の君たちはチャンスだ!勉強の息抜きに筋肉を鍛えていこう!」  最初に、筋肉の話をする先生はいるのだろうか。ただ、体育の授業に筋トレが追加されるのかなと不安に思ったけど、そんなことはなかった。  何が多きく変わったのか、プロテインを給食に毎回飲まされることである。 「いいかい、これは他のクラスのみんなには内緒だけど、これを毎日牛乳と混ぜて飲みましょう!僕の自費だから痛いけどね。筋肉に良いから!」  給食は絶対に牛乳がついてくるから、先生曰く、プロテインが取りやすいし、味に変化があるから牛乳に飽きないから良いと、強制的に私達に押しつけてきた。最初の頃はみんな、恐る恐る先生の言いなりになって、プロテインを飲んでいたけど、一ヶ月も経つと、みんな何も違和感を持つことなく、普通に飲んでいる。私を除いて。  私はプロテインを飲むと、胸焼けが少しだけするから、最近はずっと隣の人にプロテインの粉を横流ししている。午後の授業に集中できなくなる事が頻繁にあったけど、飲まなくなって良くなった。  というかこの状況を他の先生達が知ったらどうなるのだろうか。いっそのこと、ちくったら問題にはなるだろう。けど、みんなのあいつへの好感度を考慮すると、私が攻撃される未来が見えるからやめておこう。    プロテインをみんな飲むようになって、ちょっと筋肉がついたのかなと感じさせる人もいる。  しかも週2回、一部の男子達は放課後に体育館であいつと筋トレしているらしい。  体を動かすのが嫌いな私は逆に熱心に筋トレしている人達は尊敬する。  他にも変わったことがある。クラスの雰囲気が良くなった事だ。  別のクラスは不登校の人が1人2人といるが、私のいるクラスには誰もいない。  これはあいつの影響なのだろうか。  けれどきっと偶然だろうと思いこむ事にした。  私は、あいつが苦手だから。そこは認めたくない。  ここ最近、、寒くなってきた。あいつは相変わらず、私の心をやけどさせるぐらい熱いけど。  このまま平和な日常?が進んで欲しいなと漠然と考えていたら事件が起きた。  事件の発端は、クラスメイトの男子が持ってきていたダンベルが、掃除中に誤って引き出しから落ちてきて、女子の足の上に落ちてきた事である。  その女子は私の友達である紗奈だった。ダンベルが紗奈の足に直接当たることはなかったけど、大惨事になるところだった。   紗奈はあいつに対して、私ほど苦手意識はないけど、あいつに好印象は持っていない。あいつに不満をため込んでいたのか、怒りの感情が彼女の壁を越えていく。  「高島先生!クラスにダンベルを持ってくることを許可しないでください!」  「分かった。今度から教室内に持ち込むのは禁止する。体育館に置くように話をつけておくから。」  「私の足が骨折していたかもしれないのですよ。第一、学校のルールを守らせるのが先生なのでは?プロテインだからと、男子が影で、タンパク質配合だから持ってきていいだろと言って、プロテインバー?っていうの持って来ているの知ってますよ。学校にお菓子持ち込みは禁止でしょう!」  「分かった。すまなかった。男共には叱って置くから。」  「そもそも、こんな事になったのは先生のせいでしょう。筋肉をつけるのがいいだとか何だとか。その前にですね、人に良いと思ったことを押し付けるのはやめてください!迷惑です。」  さすが、紗奈だ。あいつにはっきりと意見を言う。  紗奈ちゃんは筋肉は弱いが、物怖じしないメンタルの持ち主だと感心してします。  それから、あいつは少しだけ大人しくなった。しかし、男子達は筋肉への意識が変わらず、休み時間でも筋トレをしている。  クラスメイト達は全体的にあいつのおかげで、やっぱり熱気あふれるクラスになったけど。  色んな価値観を持つ人達が集合する学校で、筋トレは必要なのだろうか。        
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